第二十話 王太子とのお茶会です 一
フリージアとふたりで行う茶会は、予定よりも早く設けさせた。
期待をかけた分穿った見方をした俺は、再び体調不良といってすっぽかすのかと警戒していたが、彼女は時刻通りに現れた。
「ご機嫌麗しゅう、ジーニアス王太子殿下」
エメラルド色のドレス姿でカーテンシーの礼を取ったフリージアは、王太子妃候補にふさわしく、優雅であった。
「待っていたぞ、フリージア嬢」
「私を、ですか?」
「もちろんだ」
フリージアは歓迎する俺の態度を訝しみ、首を傾けた。
無理もない。
前回の茶会では、俺は彼女の顔と名前さえ憶えていなかったのだから。
「話したいことがあるのだ」
「どのような内容でしょうか」
「先日の弓道大会の件だ」
「弓道大会、ですか」
その言葉と同時に、フリージアはふっと目を逸らした。
「君の弓は素晴らしかった」
「ありがとうございます、恐縮です」
「だからこそ、三本目の結果が腑に落ちなかった。目をつぶって打っていただろう。なぜだ?」
俺は回りくどい探りは入れず、理由をそのまま尋ねた。
ごまかせば態度ですぐにわかる。もし本当に、俺に『忖度』したのだとしたら――婚約者候補から外すつもりでいた。
「あの時は、お恥ずかしいところを見せてしまいました。すべては私の実力の結果です。……ジーニアス王太子殿下にお伝えするほどのことはございません」
「それが、君の答えなのだな」
「はい」
俺は控えていたミールを呼んだ。
「ご令嬢は帰宅だ。今後はこの場には呼ばない。案内を」
「……ジーニアス王太子殿下、」
「どうぞこちらへ」
去っていくフリージアの何か言いたげな様子に気づいていながら、俺は視線を外した。
(忖度されるならば、負けたほうがよほどよかった)
あれほどの弓の腕だ。
茶会の席で弓道について語り合えれば、どれだけ有意義な時間になったことだろう。
どっと胸に疲れが落ちる。
期待していた分、裏切られたような気持になっていた。
(残念だ。フリージア・ランドバルクよ)
「ジーニアス殿下!」
立ち上がろうとした俺を、戻ってきたミールが慌てて呼び止めた。
「お待ちください」
「何事だ」
「先ほどのご令嬢の件ですが……」
「どうせ王太子妃候補という立場を惜しんでいるのだろう」
「いえ、そうではなく……なにやら気になることをおっしゃっていましたので、ご報告を」
「……一応、申してみろ」
「はい」
そこで俺はフリージアの、思いもよらぬ事情を知ることになる。




