第十九話 弓道大会です
フリージアは、一本目の矢を、一息で的の真ん中に当ててみせた。
か弱い見た目とは裏腹の展開に、観客からどよめきが起きた。
度肝を抜かれた俺は、フリージアに強く惹きつけられる。
(なんだ、あの技術は。狙いを定める間もなく、弓が放たれたように見えたぞ)
食い入るように、二本目の矢を待つ。
そうして、二本目。
フリージアはまたしてもノータイムで最高点を射止めた。
「あのご令嬢、もしかして、次でジーニアス殿下の得点を抜いてしまうんじゃ……」
誰かが発した言葉は、会場にいたざわめく人間だけでなく、フリージアの耳にも届いていたのだろう。
フリージアが、固くなった表情で振り向き、観客のほうを見た。
その後、彼女は、俺にとって屈辱的な行動をとった。
三本目。
(目を、閉じた……!?)
あろうことか、フリージアは三本目の矢を、目を閉じて打ったのだ。
それでも、矢は的の端にあたっていた。
「手元が狂ってしまいました」
そう言い放ち、そそくさと控室へ戻っていくフリージア。
俺は怒髪天をつくような心持ちだった。
(あの令嬢、この俺に忖度をしたのか?!)
確かに自分の身分は王太子だが、俺個人は高い身分に甘えずに、一個人として何事もひたむきに努力してきたつもりだ。
だからこそ、勉学も弓道も、俺に敵う同世代の子どもはいなかったのだ。
しかし今、俺は年下の、守られるべきの令嬢に、「身分で」気を使われたのだ。それは、俺にとって世界がひっくり返ったように、屈辱を感じる出来事だった。
俺は慌てて、ミールに詰め寄った。
「あの令嬢の名は!?」
「フリージア・ランドバルク様です」
「そいつを連れてこい。すぐにだ!」
慌ててフリージアを呼びに行ったミールを、じりじりとした心地で待った。
大会はつつがなく進行し、そろそろ終わりに近づいている。
(あの令嬢が来たら、目をつぶっていた理由を問い詰めてやる)
しかし、フリージアは現れなかった。
「申し訳ございません。ご令嬢は体調を崩し、ご帰宅されました。表彰式も辞退されるそうです」
「なんだと!」
さっきまで弓を引いていたくせに。
仮病なんじゃないのか。
俺は悔しくて、歯ぎしりをしながら考える。次に会えるのはいつだ?ふと、彼女が妃候補であると言っていたミールの話を思い出した。
妃候補とは、定期的にお茶を飲む機会がある。
(さすがに王太子との茶会であれば、必ず来るだろう。絶対に逃がさない。覚えていろ、フリージア・ランドバルク)




