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第十八話 王子の回想です

 傭兵団に送っていた使者が戻ってきたのは、フリージアに宛てた手紙を託してから、一カ月ほど経過してからだった。

 使者が差し出した封筒。これをどんなに待ちわびていたことか。

 指先が震えて封を開けるのももどかしい。胸が高鳴る。俺ははやる気持ちで、手紙を読んだ。

手紙には、こう書いてあった。

「お手紙を拝見しました。繰り返しになりますが、私は国に戻りません。たとえ殿下がカルデラにいらしても、お会いするつもりもありません。私はカルデラで平穏に暮らしています。どうぞご安心なさってください」

短く、そっけない文章に落胆し、俺は項垂れた。

(……そう簡単にはいかないか……)

 使者を下がらせて、俺はソファに沈むように座り込んだ。

(昔は、あんなに一緒にいたのに……。もう、俺は必要ないのか?)

暗く沈む気持ちに誘われるまま、俺は目を閉じて、昔の、楽しかった時期を回想するのだった。


***


 フリージアと初めて出会ったときのことを、俺は正直覚えていない。というのも、フリージアが上殿するようになって数年のうちは、俺にとって彼女は何人もいる婚約者候補であり、どこにでもいる令嬢のうちの一人でしかなかったからだ。

 初対面の印象は覚えてはいないが、その代わり、フリージアのことを「個人」として認識した日のことは、よく覚えている。


 それは、俺が十五歳、フリージアが十三歳の時だった。

 よく晴れた初夏の吉日に、英雄王ティバースにちなんで、王家が主催する弓道大会が行われたので、俺もフリージアは会場に集まっていた。


 俺は自分でいうのは何だが、自他ともに認める弓道の才があり、日頃の研鑽も欠かさない努力家でもあった。

 だからこそ、子どもの部ではおそらく自分は優勝できるだろうと考えていた。

 忙しい両親に弓を見てもらえる貴重な機会でもあっため、その日のために、俺は厳しいトレーニングも積んでいたのだ。絶対優勝して、両親に勝利をささげようと思って、俺は息巻いていた。


 試合の形式は的当てだった。

 出場者には三本の弓が与えられる。三回弓を射って、当てた場所の得点を合計し、勝者を決めるのだ。

「さすがです、王子!」

 俺の矢は三本とも高得点を射抜いた。会場はざわめき、側近が明るい声で褒めてくれた。

 満足いく結果を出し、この成績にかなうものはいないだろうと思っていた俺を翻弄するように、フリージアは彗星のように現れた。


 フリージアは、初めのうちはおとなしくしていた。


 女性の社会進出が他国より進んでいるフェリスとはいえ、弓道大会に女性の姿はまだ少なかった。珍しい令嬢の弓道者には、会場の民から温かい応援が送られた。

 この幼い令嬢がどんなふうに矢を扱うのか、見てみたいと思った。

 控えていた側近のミールが、婚約者候補の令嬢だと解説したが、どの令嬢のことかはわからなかった。

 この時が、俺が初めてフリージアをただの令嬢ではなく、一人の人間として意識した瞬間になった。

 さらりとしたピンクブロンドの髪の束をうっとおしそうに後ろへ払いのけたフリージア。

 弓を構えた彼女は、蜂蜜色の瞳で的を捉え、ひとつ呼吸をした。

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