第十六話 これは過去のお話です 十
ノアの予想どおり、ギルドでは依頼を受けることになった。
内容は森の中で害獣となっている魔物の駆除。数が増えすぎていて、近隣の村人たちの脅威になってしまっているのだそうだ。
今回のチームは斧使いの団長と剣士のマリン、弓を扱う私の三人だ。
ノアがくれたアドバイス通り、団長の指示に従い、マリンの動きもよく見て、私は慎重に動いた。
(……大丈夫。できる。家の騎士たちに、こっそり演習に参加させてもらっていた経験が生きている)
「弓兵なら目がいいだろう。周囲の様子を見てきてくれるか」
「わかりました」
一人での行動に緊張を感じながら、私は偵察に出かけた。
なるべく腰を低くして、草木に紛れるようにそっと歩く。
(いた。レッドタイガーだ)
私は腰を落として風下に移動した。
風上にいれば、私のにおいをかぎつけられてしまうから。
それから、見つけた獲物を観察。
赤い模様がある毛に大きな牙と爪。
エサを探しているのか、周囲を嗅ぎながらのしのしと歩いている。
レッドタイガーは騎士から借りた魔物図鑑では、たしかカルデラ地方に生息する魔物で、あの爪と牙には毒があると書かれていた。
(おなかがすいているのなら、凶暴になっているのかもしれない)
今度は見つけたレッドタイガーから視線を外し、周囲の様子を観察する。
子どもなど、ほかの個体の姿はない。私は方向と目印になるものを確認して、さらに森の奥へと入っていった。
そして半刻後。団長とマリンのもとに戻って、状況を報告した。
「ここから円状に偵察してきました。姿を見たレッドタイガーは五体。西に二、北に二、南に一です。子どもの姿はありませんでしたが、つがいはいました。食べ物を探している様子も見られたため、中には空腹で凶暴になっている個体がいるかもしれません」
報告を受けた団長は満足そうに頷いた。
「よくやった。さっそくその五体を駆除に向おう。レッドタイガーの毒は厄介だから、はじめにお前の弓で体力を削ってくれ。弱ってきたところを俺たちが打つ。いいな、マリン」
「承知しました」
クールに頷いたマリンは、私に向かってかすかに微笑んだ。
「お疲れさま、フリッグ。これから、駆除も頑張っていこう」
「……!うん!ありがとう、マリン」
隊長にもマリンにも労ってもらって、うまくできたんだ、と思ってほっとした。
(私、ちゃんとできたんだわ)
嬉しい気持ちがふつふつとわいてきて、私は小さくガッツポーズした。
(……だからこそ、気を引き締めて最後までしっかりやりきらなくちゃ)
私たちは予定通り、初めに見つけた五体を駆除した。
そのあとも何度か斥候に向かい、最終的にはレッドタイガーを全部で三十体も駆除をできて、初回の仕事は成功に終わった。
(それにしても、疲れた……)
騎士に鍛えてもらったとはいえ、団長もマリンも歴戦の強者である。
ついていくことがやっとな場面もあり、拠点に戻ってきたときには、体はすでにバキバキだった。
「フリッグ、ちょっと」
夕飯に出たノアの姉・ニーナ特製のレモンケーキで疲れを癒していると、ノアに声をかけられた。
また小言かな、と身構えた私に、ノアは舌打ちした。
「……勝手にこっちの要件を想像して、身構えるのはやめてよね」
そういったノアは、見たことがない顔でに、と笑った。
「しっかり斥候してたって団長からきいたよ。やるじゃん」
ノアが笑うところを初めて見た私は、感激した。
(ノア、笑うとこんな顔するんだ)
「褒めてくれるの?ノア。ありがとう!」
「わ!」
喜びのあまり私はノアにハグをしてしまう。ノアは驚き、転んでしまった。
廊下に二人で尻もちをついた格好になった私たちは、顔を見合わせて、笑った。




