第十五話 これは過去の話です 九
「ねえ、ノア。今度、団長と一緒にギルドに行くんだって。どう思う?」
事前に告げられた予定を、仲良くなったノアにこぼしてみた。そんな私のセリフに、ノアはちょっと心配そうに返した。
「それ、本格的な入団テストかもね。たまにあるんだよ。実力が未知数な奴が入った時にやるんだ。適性がないと判断されたら、切り捨てられるよ。団長、そういう時は厳しいんだ」
私は不安になった。
「え、私、未知数?切り捨てられるの?いちおう、紹介なんだけど……」
「紹介って、誰から?」
「それは、私もよく知らない……」
そういえば、団長に紹介してくれたというミチルの上司って誰なんだろう?
バタバタして、聞きそびれてしまった。そんな今更な疑問を初めて抱いた私を見て、ノアはあきれたようにため息をついた。
「なにそれ。しっかりしてよね」
ノアはこちらに向き直って、真剣にこう言った。
「いい?団長とギルドに行くのなら、そこでなにか依頼を受ける可能性が高い。焦らず落ち着いて、自分にできることをやるんだ。団長の指示を聞いて。できる?」
ノアが面倒見よくしてくれるアドバイスを、私は真剣に受け取った。
「わかった。精一杯、頑張るよ」
頷いた私を励ますように、ノアは言った。
「その日は姉さんに頼んで、レモンケーキ焼いてもらうよ。食べたことある?レモンケーキ」
「ううん。食べたことない」
「じゃあ、ちょうどいいや。姉さんのつくるケーキはおいしいよ。楽しみにして、頑張ってこい」
ノアは私を励ますように、拳をこちらに突き出した。
その拳に、私も応えて、同じようにグーを作って、鳴らすようにコツリとノアの拳に触れた。
「うん。ありがとう、ノア」
私は、この傭兵団が好きになり始めていた。
ここを、私の居場所にしたい。
そのために必要な試練があるのなら、どんなに大変でも乗り越えたい。
私がお礼を伝えると、ノアは照れたのか、顔を赤くして、そっぽを向いてしまった。
***
かくして、団長と出かける日が訪れた。
前日の夜までに弓の弦を張り替えて矢を補充しておいたし、忘れ物もチェックして、その日の私は準備万端だった。
「ギルドに行くのは初めてです。どんなところですか?」
どんなところかなんとなく不安なような、楽しみなようなふわふわした気持ちを、ストレートに言葉にした私に、団長はギルドとはどういうところか、改めて説明してくれた。
「うちが言うギルドとは、傭兵ギルドのことだな。ほかには職人が利用する職人ギルドとか、色々種類があるんだ。契約した傭兵組織や個人に対して仕事をあっせんしたり、求人の募集や紹介をかけてくれる場所だな」
もし、この傭兵団にいられなかったら、私はどうすればよいのだろう。
せっかく実家の使用人たちが協力してくれて、この家出は叶ったのに。
ギルドへ同行してくれたマリンが、私の手を握って、励ましてくれた。
「体に力が入ってる。そんなに緊張しなくても、大丈夫」
「ありがとう、マリン」
(まだ、団長からは何も言われてない。やる前から不安になってどうするの)
「私、頑張ります……!」
ばくばくする心臓を抱えた私は、顔を上げて、高らかにそう宣言したのだった。




