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第十四話 これは過去のお話です 八

 「ここは、カルデラの首都マーサ。大市場と古い建造物が有名な大都市だよ」

ニーナに街の案内がてら買い出しに行くように言われて、私はノアと一緒に拠点を出た。

 (これでもずいぶん熱い……夕方になるまで待つように言われたのは、こういう理由だったのね)

 ノアがなじみの市場まで迷うことなくさっさと歩いていくので、慌てて小走りになって追いかけた。

「今日は何を買うの?」

 ノアはピタッと立ち止まった。

「新入り、敬語!」

「ひえっ!」

 ノアはため息をついて、それでも買い物リストを見せてくれた。

「随分たくさんある……。セロリ、カブ、ピスタチオにイチジク」

「もういいでしょ?行くよ」

「あ、待って!」

「まったく。トロいんだから。……今日は量が多いから、半分ずつ手分けしよっか。乾物と果物を頼める?野菜と肉は僕が買うから」

「わかった!やってみる!」

 仕事を任されて、嬉しく思った私は、手渡された買い物リストの半分を握って駆け出した。

「あっ、お金持って行けよ!あと、場所―!」

「いってくるね!」

 というわけで、ノアの大事なストップをよく聞かず、私はノリで、買い出しに向かったのだった。


***


 結果から言うと、買い出しはうまくできなかった。

適当な方向へ走った私は、奇跡的に果物屋の屋台にたどり着いた。

「こんにちは!」

 そのままの勢いで、屋台に立っていたおばさんに声をかけた。

「いらっしゃい。何を探しているんだい?」

「オレンジと、リンゴと、レモンとイチジクを……えっと、半ダースずつ」

「はいよ!合計500ゴールド。たくさん買ってくれたから、端数はおまけだよ」

「ありがとうございます」

 果物を受け取った私は、ふと、あれ、お会計はどうしていたかしら、とここで初めて自分が買い物の仕方を知らないことに気がついた。

(使用人とお買い物に行ったときは……どうしてたっけ……そうだ。たしか使用人は……)

「お会計は、また後程、傭兵団のものが支払に来ますので……?」

「はあ?あんた、金を持っていないのかい!?」

おばさんは、先ほどまでの明るい雰囲気が嘘だったかのように、腕を組んで私をにらみつけた。

「いえ、そうじゃなくて、後で、」

「フリッグ!!」

 トラブルになりそうなタイミングでノアが来てくれて、私は運がよかったと思う。

「すみません。うちの新人が迷惑かけて。支払いは僕がしますので、それで勘弁してください」

「ああびっくりした。ずいぶん世間知らずなお嬢様だねえ」

 お嬢様と言われてドキッとした私を、お会計を済ませたノアは噴水近くの憩いの場所であるベンチまで引っ張っていった。

「こら!買い物の仕方を知らないなら、先に言え!!」

「ご、ごめんなさい……」

 親が子どもを叱るとき、「こら」という言葉を使うと、物語を読んで知っていた私は、実際に体験することになり、内心びっくりしていた。

(お母様は早くなくなったし、お父様はいつも忙しかったし……思えば、私、誰かに叱られたことがあまりなかったかも)

 しかも、目の前のこの子は、『知らないのなら先に言え』と怒ってくれた。

 私が知らなかったこと自体を責めるのではなく、相談しなかったこと、勝手な言動を取ったことを、ノアは怒ってくれたのだ。

(命令を聞かないと命に係わるってニーナも話していた。……私、ノアやニーナ達の言うこと、ちゃんと聞こう。聞いて、相談する。皆と、ちゃんと話をしよう)

「勝手な真似をして、本当にごめんなさい、ノア」

 しょんぼりと謝った私を見て、もっと何か続けようとしたノアは気まずそうに口を閉じた。

「わかったんなら、もういいよ」

 ノアはそれから、私と一緒に屋台をめぐって買い物の仕方を教えてくれた。

(私、この子が好きになれそう。仲良くしたいな)

 そう願う私の胸の中で、友達という言葉がきらきらしていた。

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