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第十二話 これは過去のお話です 六

 トムは私に、食事と一緒にあるものを運んできた。

それはメイド服と騎士隊の練習服だった。

「お嬢様、これを使えば屋敷の中を動き回れます。さあ、屋敷を出る準備を進めましょう」

 トムは私の両親に重用され、それが故に今は冷遇されている使用人のなかでも信頼できそうな者に声をかけ、どうすればよいか話し合ってきたのだという。

 トムがまた持ってきてくれた食事にかぶりつきながら、私はその話を聞いた。

(なんだか、トムのご飯を食べると、調子がいいわ。あのひどい食事を食べなくてもよくなかったからかな?)

 彼曰く、私の両親には親戚らしい親戚が少なく、力になってくれそうな人物は見つけられなかったらしい。

 また、継母は意地悪だが侯爵夫人としては優秀で、社交界でも領地経営の点でも、着実に自分の地位を固めていて、私のことを公にしても、握りつぶされた上に、さらに状況が悪くなる可能性があった。

「お嬢様にはご苦労をさせてしまいますが……。市井に下るのが良いかと思います。お嬢様は、確か弓が大変お上手だとか。騎士団につてがあるものがおります。市井で、傭兵として働かれるのはいかがでしょう」

 いかがでしょう、と意向を聞かれたが、自分の身を顧みず、勇気を出して皆が考えてくれた作戦に、不満なんてあるわけがなかった。

「私、やってみるわ。でも、ちょっと自信がないかもしれない。だって、弓なんてもうずっと引いてないし、体力も落ちていると思うの」

「その点は問題ありません。先ほども申し上げましたが、騎士団に協力者がおります。お渡しした騎士団の練習着をお召しになれば、ほかの騎士たちに紛れて、訓練が受けられます。騎士舎までは、申し訳ありませんがメイドの服をお使いください」

「なるほど。だからこのニ着を用意してくれたのね」

私は頷いた。

「部屋を出る際には、来ていた服や枕で、お嬢様が横になっていうように布団に膨らみを作ってきてくだされ。時計をお渡しします。また後で時間をお伝えしますので、所定の時刻になったらこの庭まで。よろしいですか?」

「ありがとう。みんなの献身に感謝します」

「光栄です。それでは、本日はこれで」


 トムはそういうと、私が出したごみをまとめて、用心深い足取りで仕事に戻っていった。

(市井で傭兵、か。どんな仕事なのか、よくわからないから、ちょっぴり怖いけど……きっと大丈夫。皆を信じて、身を任せてみよう) 

 部屋に戻った私は、弓を習っていたころに、先生に習ったことを思い出した。

(腕立て伏せや腹筋、イメージトレーニングなら、ここでもできるわ)

 その日から、私はこっそり筋トレを始めた。騎士団のトレーニングが始まると、はじめのうちは体がなまっていることに驚いたが、続けていくうちにスムーズに体を動かせられるようになってきた。

(私、助かるんだわ)

 そして、すべての準備が整い、具体的に屋敷を出る話が出る頃、私は十五歳になっていた。

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