第十一話 これは過去のお話です 五
中庭に通っていると、トムが作業にでてくる時間帯が分かるようになった。
様子を見ながらその時間帯に合わせると、トムは短い間にいろいろなことを私に教えてくれた。
私のこの状況は、「虐待」と呼ばれるものだということ。
使用人の中には私に対して心を痛めている者がまだたくさんいるが、表だって義母と義姉に逆らうことができないこと。
父の死は一般的には「過労」とされているけれど、実際には不自然な点が見られること。
このままランドバルク家にいれば、私の身も危ないかもしれないということ。
(お父様が亡くなった理由は過労ではない……?では、いったいなぜなの?)
私のほうも、食事の衛生状況が悪く、満足に食事をとれていないこと、時折義母から扇子で叩かれることがあること、お風呂に入れていないことをトムに伝えた。トムは私のために、義母の行いを怒ってくれた。 父と母のために働いて、私のことまで大切にしてくれるトムの真心。それがいっぱい詰まった「リンザ」の花びらを、私は愛おしく思いながらそっと撫でた。
「奥様方に逆らえなくても、お嬢様をお救いしたいと考えている使用人はいます。どうか、希望をお捨てにならないように」
「ありがとう、トム……」
「さあさ、湿っぽい話はここまで。今日はお嬢様にお渡ししたいものがあるのです」
「なあに?」
トムはカバンから大きな包みを取り出した。
「これは……」
「サンドイッチです。妻が作ったので、お嬢様が召し上がるには粗末なものですが、召し上がってください。確かなことは申し上げられませんが、今の食事は、今後お口になさらなないように」
「今の食事に、なにかあるの?」
「…確かなことは、今は何も申し上げられません」
「?、わかったわ。話せる時が来たら、教えてちょうだいね。ご飯、感謝するわ。……いただきます」
サンドイッチは大きく、分厚く、肉と野菜がたっぷり挟まっており、とってもおいしかった。
(粗末だなんて。私にとっては、世界一のご馳走よ)
食べ終わってお礼を伝えると、トムは少し微笑んだ。
「この屋敷は広く、お嬢様の現状を知らない使用人も多いのです。今、昔なじみのものに、お嬢様のことを話しているところです。儂等ができることなど限られていますが、尽力いたします」
「嬉しいわ。なんてお礼を言えばいいかわからないくらい、感謝している。どうぞトムも、お義母様たちにみつからないように気を付けてね」
私は中庭を後にした。もしかしたら、私は助けてもらえるのかもしれない。だんだんと大きくなる希望で、胸が躍った。




