表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

 服装はごく普通の観光客のように見える。だがその目の動き、立ち位置の取り方は、明らかに『訓練を受けた動き』に見えた。

 そのうちの真ん中の男が、白い歯を剥き出しにしてニヤつくと、顎を動かして仲間に合図を送った。


「へぇ~、ここの女子ってなぁ、レベル高ぇなぁ! 制服も可愛いしよ!」

「なぁ、そこのおねぇちゃん、遊ぼーよ。俺らとさ、もっと楽しいことしようぜ?」

「つーか、このねぇーちゃん、めっちゃ良い身体してんじゃね?」

「なぁなぁ、ルクスペイの女子ってさ、清楚ぶってるけど案外ノリいいって噂だぜ? ほら、怖がんなくていいからさぁ~」

「俺、ルクスペイの女と一発やってみてぇんだよな~」

「そーそー、今夜は織姫と彦星が結ばれる夜っつーなら、俺らにもチャンスってことじゃね?」


 男達がゲラゲラと笑い、真ん中の男が、科乃の腕に手を伸ばした。


(いや)っ!」


 科乃が悲鳴を上げそうになったその瞬間だった。


「触るな。下衆(ゲス)……」


 鋭い声が、夜のざわめきを切り裂いた。

 科乃のすぐ隣。柔らかな髪に涼しげな顔立ち、どこか中性的な雰囲気をまとった大和が、目を伏せたまま静かに言い放った。

 しかし、その瞳の奥には、確かに冷たい怒りが宿っていた。

 男達は一瞬たじろいだものの、すぐに鼻で笑った。


「はぁ? 何だお前?」

「邪魔すんじゃねぇよ、女か男か分かんねー(ツラ)しやがって」

「それともこの子の彼氏君か~?」

「独り占めは良くないぜ、楽しい事はシェアしようぜ……てか、テメェ邪魔だわ」

「つーか、死んどけ」


 男達は下品な笑い声をあげながら、完全に調子に乗っていた。

 大和を侮り、科乃をモノ扱いし、周囲の視線さえ気にしない。

 だが、大和は一歩だけ、前に出た。

 科乃を背後に庇うように、男たちとの距離を詰める。


「さぁ、来なよ! ねぇちゃん!」


 科乃の腕に手を伸ばした男の手、が科乃に触れるより早く、大和の指先がその手首を掴み――

 ボギッと鈍い音と共に、腕が捩れ、男が地面に沈んだ。


「なっ……お前……!」


 周囲の四人が一斉に動こうとするが、それより早く、大和の足が地を蹴った。


 一人、二人、三人目――

 接近してくる男達の動きの起点を読み切ったかのように、関節を押さえ、足を払っては地に伏せさせる。

 全てがほんの一瞬の出来事だった。


「な、何だ、こいつ……! 情報にないっ……」


 最後の男がナイフを抜きかける。

 だが、その刃が光を反射する前に、科乃のペンダントが再び青く輝いた。

 その瞬間、周囲のドローンが一斉に軌道を変える。

 まるで意志を持ったかのように男の顔へと集中的にレーザーを照射。視界を封じられた男は、あっという間に大和にねじ伏せられた。


 数秒後。

 白いスーツに身を包んだ男女が駆けつけ、倒れた男たちを拘束していく。


「確保に入れっ!」


 低く張り詰めた声と共に、漆黒のスーツに身を包んだ男が現れる。

 銀縁の眼鏡をかけ、無駄のない動きで現場に現れたのは、ルクスペイ学園の要人警護部隊“シークレットサービス”の隊長、ペク・ソクジンだった。


 ソクジンの指揮で、倒れた男達に拘束具を装着していく。数秒後、すべての潜入者は完璧に無力化された。


「反応あり。認証コード、ユーフォリア外縁領からの潜入者。重装備の兆候なし……しかし、動きが訓練兵並みです」

「任務目的は?」

「不明。追って解析します」

「よし。運び出せ。目立たぬよう、医療搬送に偽装しろ」


 次々に飛ぶ指示に、隊員たちは迅速に対応していく。


 ソクジンは、それらの様子を確認した後、視線を大和に向けた。

 整った顔立ちに微かに笑みを乗せ、ゆっくりと歩み寄る。


「いや……驚いたな。ずいぶんと手慣れているじゃないか」


 そう言って、ソクジンは目元を細めた。


「この手合いを、あの人数で、あの精度で無力化するとは。まるで元・特務部隊(シールズ)だな……いや、現役か?」


 冗談めかした口調ではあったが、その声には本物を見た者の敬意が滲んでいた。

 大和は首を横に振りながら、肩に掛かった制服のネクタイの位置を整える。


「そんな肩書き、持ってた覚えはありません……身体が勝手に、動いた感じです」

「ふむ。なるほど。記憶にない(・・・・・)……ね」


 ソクジンは顎に手を当て、意味ありげにうなずいた。

 その目は、どこか懐かしいものを見るような色をしている。


「まあ、詳細は詮索しない。俺の役目は、護ることだけだ」


 そう言って、彼は右手を差し出した。


「ありがとう。君のおかげで、最上科乃嬢に傷ひとつなかった」


 その言葉に、大和は一瞬目を見開くが、すぐに柔らかく微笑み、そっと握手に応じた。


「……どういたしまして」


 握手を終えたペク・ソクジンは、大和にもう一度だけ目を向ける。

 その眼差しは、尊敬と、かすかな懐かしさの入り混じったものだった。


「今夜のことは、こちらで処理しておきます。貴方が気にすることではありません」


 口調も穏やかなものになり、さらりとそう告げて、ソクジンは背を向ける。

 部下達が拘束者を運び出し、彼もまた現場を離れようとする。

 その時だった。

 一歩、二歩。足を止めたソクジンは振り返り、淡々と、だがしっかりとした声で言い放った。


「では、失礼します、少尉殿(・・・)


 その言葉と共に、背筋を正し、右手を額に当てて軍式の敬礼を交わす。

 それは明らかに、現役の軍人が上官に対して行う儀礼だった。大和の瞳がわずかに揺れる。だが、驚きも否定もない。代わりに、ほんの一瞬だけ、彼も手を上げて、静かに答えた。


 ──自分は何者なのか?


 全ての記憶が戻った訳ではない。だが、身体は知っている。

 そして認識している。

 戦いの流儀も、覚悟も……『テリー』というTACネームを持つ戦闘機パイロットである事も。


 ペク・ソクジンは、そんな大和の心中をすでに察していたのだろう。彼は静かに踵を返し、部隊と共に夜の闇の中へと姿を消していった。


「大丈夫だった?」

「うん……でも、怖かった……」


 笑顔で応じる科乃だったが、細い肩が、わずかに震えていた。

 突然の出来事に、不安を覚えていた。ペンダントの光、異常な共鳴、そして心の奥から湧き上がってくる懐かしさ。全てが混乱していた。


「天城君……?」

「俺から離れないで。離れると守れるものも守れなくなるから」


 震える肩に手を添えられ引き寄せられる。その力強さが心地良い。そう思った直後、科乃の中で一つの情景が流れた。

 満天の星に焚火。静かに響く波の音……そして傍らにいたのは空色の髪の男の子。

 この光景は、夢で見たものなのか、それとも実際の記憶なのか。科乃には判断がつかなかった。


「どうして……こんなに懐かしいのか、分からないの……」


 震える声。大和がそっと、彼女を抱き締めた。

 その温もりに、科乃は心の底から安心感を覚えた。まるで、帰るべき場所を見つけたかのような感覚だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ