1悲劇の事故
もしも、俺がいなかったらあいつは幸せだったはず―
五年前―
「ユーナ! 早くしないと置いてくぞー?」
「まってよユーキ君」
夏休み、俺とユーナは公園で遊んでいた。
変わらない。昨日もこの公園で遊んだ。
キキキキーーーーー……
当然だった。
一台の黒い車が俺たち目掛けて猛スピードで来た。
「ユーキ君!」
俺はユーナの手を力強く握り、精一杯走った。
ガシャーーーーン……
現実、人間の走りと車。逃げれるわけがなかった。
俺はかすかに残っていた意識でユーナを探した。
「ユー……ナ…ユーナ…」
目の前に倒れているのは血だらけのユーナ。
そしてそのユーナに一人の男性が触れた。
「まだ、意識があるぞ! 早く救急車を呼べ!」
ユーナに触るなと、言おうとしたが意識が遠野っていく。
「ごめんな……」
最後の最後で俺はそう言った。
~一週間後~
ユーキが目を覚まして三日が経った。
「……」
「三日間、ずっと彼は鏡を見つめているよ」
「自分が誰なのか、確かめているのかしら」
ユーキは横にある鏡をジッと見つめていた。
彼は交通事故で頭を強くうち、記憶が無くなってしまった。
何もしゃべらず、ただ鏡を見つめていた。
「それにしても、車の主はまだ捕まらないのかしら」
「ああ……警察も手を引いたよ」
「どうして?まだ一週間じゃない」
「何か理由があるんだよ」
看護士達は、ひそひそ声で話していた。
「……ユー……ナ」
突然、ユーキが口を開けた。
それじゃ確かに「ユーナ」と言った。
「え……」
看護士もびっくりしたように目を丸くした。
「ユー……ナ……どこ……」
一生懸命に喋ろうとするユーキに、看護士も
涙目になっていた。
ユーキが入院してきて一週間、誰も見舞いには来なかった。
両親も、友達も、誰も。
「ユーナちゃんはまだ寝てるわ」
そっとユーキの手を握り、優しく言った。
「ユー……ナに……会いたい……」