小さなチャペルで特別な式を。
三ヶ月後 イタリア
フィレンツェの街を歩く。
歩道は石畳で、道はコンクリートで舗装されている。
大きな通りには、街の景観とは不似合いな近未来的な路面電車が走っていた。
「言ってること何一つわかんないよ! 難しいね」
日本語のガイドブックを見ながら話す。
「スマホとノリでなんとかいけたじゃん」
「まぁ、明後日は結婚式だし、それまで楽しみましょう」
三人で話しながら道を歩く。
一日中歩けるくらい、観光地が沢山あった。
「それにしても三人での結婚式で、よく牧師見つかったよね」
「形式だけですから、もしかしたら本当の牧師ではないかもしれませんよ」
「コーディネーターさんがなんとかしてくれたから、詳しいこと知らないんだよな」
普通は結婚となれば緊張するものだが、ぜんぜん緊張していなかった。
「なんかこれ三回目の結婚式じゃん。結婚式に慣れてきちゃったよ」
そう。親族を納得させるために、親族のみのかなり小規模な式を二回している。
結局、戸籍情報なんて知らない限りブラックボックスで、誰が誰と結婚してるかなんて外部からは分からないのだ。
一回目がナツで二回目がトール。トールの親は大規模が良かったらしいが、こちらの親族がゼロだといって乗り切った。
上田愛夏には親がいるが、それは私の親ではないので、出せなかった。
ナツは私の母親に電話をかけて報告したようだったが、なにを言われたかは教えてくれなかった。
たぶん、そういうことなんだと思う。
「まさか親も新婚旅行でも結婚式してるとは思わないだろうな~」
「まぁでも、これが本番ですからね」
「籍まとめてはじめての結婚式だからね~」
「明日にはシャッチョとユリちゃんがこっちに到着するんだっけ」
「あの二人、俺らより早く籍入れたよな」
「年とってるから早くするんだって言ってたよ。こっちも子ども解禁しようか」
8年はかかるんだから早くしないとまずいかなと思ってしまう。
「解禁って……いいの?」
「だって結婚したし」
「うらやましい……」
そういえば、トールはナツに最初の子供を作る権利を譲ったんだった。
少なくとも妊娠するまではダメだから、それはそれでかわいそうな気がする。
「なんか要望が他にあれば、考慮するけど」
一応聞いてみる。
「えっ!!!! いいんですか?!」
トールが大声を出すので、まわりの人がこちらを見ていた。
「お前やめろよ観光地で」
「叫ぶようなこと言ってないのに」
呆れながら言うと、何の反省の色もないトールは、こちらをグリンと見つめた。
すごく嫌な予感がする。
「じゃあ、あの、こういうのは大丈夫ですか」
耳元で囁かれる。
なんかとんでもないことを言われた。
「え、聞き間違い? もう一回言って」
もう一回聞いても間違いなかった。
「ええ……観光地で聞く話じゃない……」
「ダメですか」
怒られた犬のようにシュンとなる。
そんな顔をされると、断りにくい。
「考慮します!」
とりあえず、そう答えて歩き出す。
ナツは話が聞こえたのかなんなのか、ニヤニヤしていた。
なんで新婚旅行でも最終的にはこうなるんだ……と黄昏ながら道を歩くしかなかった。
二日後
小さな邸宅のチャペルで式を挙げる。
「あっちゃん。本当に綺麗」
はじめて私のウェディングドレス姿を見たユリちゃんは涙していた。
「ユーキちゃん。本当に良かったな」
「シャッチョもおめでとうございます。結婚式しないんですか?」
朝からバタバタしていたが、そんな美しい涙を見たら、嬉しくなってしまう。
「ユリ坊が、あっちゃんが結婚式しないうちは結婚式しないっていうから、うちはこれからだな」
「えっ、知らなかった」
「だって! 大事じゃないこういうのって!」
「ありがとう、ユリちゃん。私の一番の友達だよ」
「私もだよ~!! あっちゃん~!!!!」
私を抱きしめて、ユリちゃんは号泣している。可愛い顔が台無しだ。
「ユリちゃん。泣かないで。可愛い顔で参列してくれるでしょ」
「ヴん!!!!」
ユリちゃんは、変な声でいい返事をした。
式が始まり、ドアを開ける。
バージンロードの向こうに二人が待っていた。
ゆっくり歩いて、二人の間に入り、誓いの言葉を言う。
二人でも三人でも、幸せを願う未来の言葉に変わりはなかった。
濁流にのみこまれるように進んできてしまった関係だが、その分経験も濃かった。
許し、許されてきた関係だからこそ、誓えるのだとも思う。
二人と指輪を交換して、誓いのキスをする。
最後に結婚証明書に三人でサインをして、バージンロードから外に出た。
三回目の結婚式だったけど、一番しっくりきた。
心から喜べたのも、これだけだと思う。
結局、やっぱり自分は欲張りで、二人ともいないと納得できないみたいだ。
外に出ると、ユリちゃんとシャッチョがいた。
ブーケを投げることはしないで、直接ユリちゃんに渡す。
「よがっだよぉぉ~~~~~……」
ブーケを受け取ったユリちゃんの化粧は、完全に剥げていた。
目も腫れてきてたけど可愛かったので、可愛い顔で参加はできてると思う。
目の前には、数は少ないけど友達がいて、両側には愛する人がいる。
欲張りな私は今日、世界一幸せな花嫁になった。
ヒント・ユリちゃん




