結婚話と初のイチャイチャ拒否
次の日。
会社に行くと、噂も、変な視線も一切なくなっていた。
(いったい何をしたんだろう)
わからないけど、二人がなにかをしたということだけは分かる。
机を開けると、無くなったと思ったものが戻ってきていた。
(わざと盗んでいたって事実に代わりはないけど、もういいや)
会社内に自分を陥れようとする人がいたのは確かだけど、もういい。
そういう人もいると思ってやっていかないと、この世はやっていけないなと思った。
お昼、ユリちゃんと休憩室でお昼を食べる。
私はコンビニでパン。ユリちゃんは節約生活なので、おにぎりを持参していた。
お弁当か~おにぎりくらいなら簡単だから作ろうかな。
「ねぇあっちゃん! あとクリスマスまで2週間くらいだけど、来週くらいお泊り会しない?」
「えっ、お泊り」
いいのかな。元男だけど。
でももう男に戻れないし、友達だからいいのか。
「あまりに毎日に刺激がなさすぎて、このままじゃ枯れちゃいそう。女子会トークしたい」
「今だって女子トークじゃないの?」
「こういうとこじゃ元カレトークとかできないじゃん。飲むだけだと飲んで帰る時寒いし」
確かに、お酒飲んで帰る時は足とか冷える。
「一応、二人に聞いてみるよ」
「あー、なんか凄い過保護だからね。噂もすぐなくなったし」
「ユリちゃんの時は大変だったんだろうなって思った」
「あれに比べたらぜんぜんマシだよ」
ユリちゃんは笑って言う。
お泊り会か~楽しそうかもしれない。
ケーキとかチキンとかマシュマロ食べて、夜通しキャッキャするんだろうな。やってみたい。
ウキウキして仕事を終わらせた。
帰宅後。
お泊り会のことを、夜ご飯を食べながら二人に話す。
「いいんじゃない? たまには」
「ユーキ君の家ならいいと思います」
心配していたよりあっさりと了承してくれた。
「ユリちゃんの家じゃダメなの?」
「そういう大人のグッズがあるらしいので」
「ユリちゃんは友達だってば」
「母には出ていく催促しておくし、来週追い出しておきますから」
そういいながら、何でもないように食事をする。
まぁ、ストーカーもいるらしいし、あんまり良くないか。
「あ、そうだ」
突然、思い出したというように、トールは顔を上げた。
「ところでクリスマス、結婚しません?」
「け」
思わず止まってしまう。
「突然どうした」
ナツは呆れたように箸を動かしていた。
「一緒に養子手続きも出しましょう。記念日が一緒になりますよ」
「早くない?」
「いや、ぜんぜん早くないです。正月だと役所がやってないので」
遅くても正月ってこと?
「来年がよくない? 来年なら節目的なこともあるだろうしさ」
節目ってなんかあるっけ。
不思議に思ったけど、もう少しで食べ終わるところだったので、そのまま食べる。
「それに養子の紙自体は楽だとしても、他の手続きだるいし、名前とか仕事に響くじゃん」
「あ~、それもそうですね」
「それになんか譲歩ばっかしてる気がして嫌なんだよな」
「そりゃ、持崎部長が一番年上だし? 色々な面で、その形が一番理想的だってのはわかるけどさ」
今までも不満があったのだろう。つらつらと文句を言う。
確かに、トールの理想ばかりで進んでいて、ナツから見たらたまったものではないだろう。
「確かに不公平か」
眉をひそめて、しばらく考える。
そして、何かを思いついたようで笑って顔を上げた。
「じゃあ、ユーキ君に子どもを産んでいただく時は、上田さんが先でもいいですよ」
「は?」
「二人の子供なら可愛がれる自信がありますし」
引き気味のナツに対して、トールは本気だというように澄んだ目をしていた。
「……子供」
やっぱり産むのか。
まぁ二人も確保しておいて産まないはだめかもしれない。
そのうちエロいことしなくなるのが普通らしいし、短期決戦なのか?
でも産めんの? どんだけのびんの? 肛門だってそんな伸びないのに。
「何人うめばいい……」
「二人は」
「二人の一人ずつってことかぁ」
しかも最低の人数って気がする。でもそうなると次は4じゃん。
ああでもカードゲームするのに四人いたら便利か……。
一年おきに産んでも八年かかる……無理じゃないかな。
いきなり与えられた未来予想図に頭がおかしくなりそうだ。
「なんか時々思うけど、ユーキとする時、こいつと一緒にセックスしてていいのかマジ悩む」
「別にあなたを性的に見てないですけど」
「発想がさぁ……」
言いたいことは分かる。わかるけど、仕方ない。
最近思ったけど、溺愛ってよりはトールは執着が強い人間だ。
「ナツ。これがトールの愛だから」
「キモくて重い……」
「言い方が酷い!」
騒ぐトールに対して、ナツは不満げに睨みつける。
「元の身体の方が若かったせいで、ユーキの養子になれないし、お前と結婚っぽくなる俺の気持ちが分かるか」
「それは、お気の毒」
「だろ? 俺は! ユーキと結婚したかったの!」
不憫そうな顔をするトールに、ナツは文句を言いながらも、養子にはならないとは言わない。
実際のところはもう諦めがついてるのだと思う。
「ナツ、ありがと」
可哀想にと思いながら、近寄って頭を抱きしめる。
「でも家族になれるから。一緒の家族になろうよ」
こちらの言葉に顔を上げると、ナツはへにゃ、と笑う。
「……なるぅ」
気の抜けた返事は可愛い。
だけど、そのまま押し倒された。
ネロネロと首筋を舐められる。
(ひぃ~~~~~まだお風呂入ってないから、臭いって!!!!)
「待って、いいけどさ! お風呂入ってからにしよ」
「やだ。この前ユーキだって俺の匂い嗅いでたじゃん」
「あれはしようとは思ってないじゃん!!!」
ストッキングを脱がされる。
やばい蒸れてるから絶対やばいって!!!!
嫌だぞ臭いと思われるのもオエーってされるのも!!!!
「助けてトール!!!!」
食事を食べながら嬉々として見ているトールに助けを求める。
なんでこいつ悠長に飯食ってんだいい加減にしろ。
「本当に嫌がってるなら助けますけど、たぶんそんなに嫌じゃないですよね」
嫌がってんだろうが!!!!
「やだ!!!! 無理矢理嗅いだら、お前らとはもうしばらくやらない!!!!」
半泣きで叫ぶと二人の動きが止まる。
「そんなに?」
ナツが怯えた目をする。
「そんなに!」
睨み返した。
「即刻、すぐに止めてください」
青ざめながらトールが言う。
「元は男だけど、こっちにだって女心みたいなのはあるんだよ! バカ!!!!」
脱がされたストッキングを拾って風呂場に逃げる。
「どんなんでも気にしないのに~」
「まだちょっと早かったですかね」
後ろから聞こえてきた声に呆れながら風呂に入る。
もっと慣れたら大丈夫になんの?
でも羞恥心がなくなったら人間は終わりだよと思いながら身体を洗った。




