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美女と入れ替わったモブ男は溺愛されて困っています!【第二部完結】  作者: 花摘猫
婚約・トール編

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真一からの依頼

真一さんが運転する自動車は、家を離れて街を走る。


家の周辺は田舎の高級住宅街という感じだったが、今は商業施設が見えた。


指定されて助手席に自分が、ナツが後ろに座っている。


スマートフォンも置いてくるよう言われたから、持ってきていない。


自動車に揺られながら、ただただ話を続けていた。







「へぇ、ぶつかったら身体が変わることって本当にあるんだ」



簡単に説明を聞いた真一さんは、楽しそうに笑う。



「で、変わった途端、二人してユーキ君を、ねぇ」



言い方が悪い。


それじゃあ無理矢理した感じになる。



「別に、無理矢理ってわけじゃないですよ。男に戻らない決断も自分でしたので」


「でも、前のユーキ君はそういうお誘いがあっても乗るタイプじゃなかったでしょ」


「どうなんでしょう。女性とあんまり接点がなかったんで。寄ってきてもトールが持ってっちゃうし」


「トールはユーキ君が好きだったからね~」


「ええ……知らなかった」


「僕と実家で会った時もトールの彼女取りまくったから、めちゃくちゃ警戒してたよ」



彼女取りまくったのかよ。ろくでもない人だったんだな。


それにしても、いつからトールはこっちをメスだと思ってたんだ。



「……男なのにおかしいですね。今は女ですけど」


「なんでだろうね? 性格が穏やかだからじゃない?」



性格が穏やかでメスだと思ったら、そこらへんの奴がメスになるだろ。



「それにしても今ユーキ君の体の中に入ってる子、元が女なのにめちゃくちゃ男っぽくない?」


「あ~ナツは、攻撃力が高いんで。でも性格は良いですよ」


「イイ性格、ね」



意味ありげに後部座席で不機嫌に座っているナツをミラーで見ながら話す。


ナツは、不機嫌な表情のまま、ミラー越しにこちらを見た。



「ユーキの頃よりモテてるみたいなんで、素質があるみたいですね」


「そんなことより、なんか話したいことあるんじゃないですか。目的地があるわけでもなさそうだし」



挑発的に話す声に、真一さんは笑う。



「本当に、中身が違うとぜんぜん違うんだね~! 面白い」


「まぁいいや。そうだね。ユーキ君に頼みたいことがあって」


「頼み?」



この状況の頼みなんて、絶対いいものじゃないと思う。


運転席をみると、真一さんは言いにくいのか、少し険しい顔をしていた。



「母さんを、あの家から連れ出してほしい」



少し待ってから聞いた言葉が意外で、すぐに飲みこめない。



(連れ出す? トールの母親を?)



「……どういうことでしょうか」


「最初に話したけど、トールはあのジジイの子供だよ。多分合意ではないとは思う」


「大前提としてこの話は、僕はわかるが他の人に話したことはない。だから他の人が知っているかはわからない」



でも、顔合わせに父親が来ない今の状況を思うと、実はみんな知ってるんじゃないかという気がした。


口に出さないまでも、トールだってきっと妙な空気は察していると思う。


妙な重苦しい空気の理由が分かった気がした。




「最近、あのジジイが、また手を出してるっぽいんだ」



ぽつりと真一さんは苦々しい口調で話す。


また、ということは、母親と関係しているということか。


あの居間で会った二人がまだそういう関係だと思うと、生々しくて嫌な気持ちだ。


自分の母親がそうなっていると気付いた人の心境はもっと嫌だろう。



「だけど、行くなと言っても母はあの家に行く」


「でも、幸せそうに見えるか?」



ああ、そうか。以前より儚く見えるあの印象。


それは多分、幸せじゃないからだ。



「見えませんね。前はもっと快活だったと思います」



相手の意思に沿わない性行為は暴力で逮捕されるようなことだ。


だけど、それなら、どうして母親はあの家に行くのだろう。


理由は分からないが、これじゃあ訴えるにしたって立証しにくい。



「どうして自分の手で助けないかと思われるだろうが、あのジジイは案外手が広い」


「親父は仕事で帰りが遅いし、止めるようにも言わない。でも、僕が本当のことなんて言えやしない」


「うちは色んな仕事をしているんだが、実権はジジイが持ってるから、下手に動くと縛りがきつくなる」


「だから、ユーキ君に頼みたいと思ってさ」



苦々し気に話す言葉を、助手席でただただ聞いていた。


父親が止めないというのは、祖母がいないようだし、性的な繋がりがないと思っているから止めないのだろうか。


普通の人間は、そういう能力みたいなものはないから、知らないことは分からないもんな。



「もし、連れ出してくれたら、君たちのことをまわりに言わないでおいてあげるよ」


「それって、もしかして脅し?」



後部座席から、ナツが顔を出す。


危ないからシートベルトを外さないでほしい。



「脅しかは想像にお任せするよ」


「俺に頼めばよくないですか。一応、何度か会った知り合いみたいだし、連れ出しやすいでしょ」



ナツの言葉に、真一さんの顔が少しだけ緊張からほぐれたように笑った。



「だって、同性じゃないときつくない? こんな話」



(いや、こっちだって中身男だったし、そうそう言える内容じゃないですよ。)



でも、まぁ……ほっとけないよなぁ。


知り合いじゃない奴が助けますと言ったところで、怪しまれるだけかもしれないけど。


でも、身体が女だからこそ、言ったら手を掴んでくれることもあるかもしれない。


あの年齢で、行き場がなくて無理矢理だとしたら気の毒だ。



「引き受けます。ほっとけないし」


「本当?」



嘘もなにも、選択肢が見捨てるしかないのは、見捨てられないだろ。



「もし成功しなくても、こっちの責任じゃないので、言いふらすのはナシで」


「もちろん、それは仕方ないよ」



フフと真一さんが笑う。


別に、脅されるようなことはしていないけど、外聞が悪いのは確かだから、仕方ない。


後部座席を見ると、ナツがシートベルトをしながら深いため息をついていた。



「兄! 俺も手伝うから、そこでコーヒー奢って。ユーキにはなんか甘いの。迷惑賃払って」



気を取り直したのか、ナツは外を指さす。


外を見ると、チェーン店のコーヒーショップがあった。



「はいはい。分かりましたよ」



少し苦笑しながら駐車場に入る。


重苦しい気持ちなので、飲み物がはいるかは分からないが、気分転換が必要だと思ったので丁度良かった。














二人きりにはできないから、みんなで買いに行こうというナツの提案で、全員で店に入る。


「なに美味しいんだろ」


「パッションフルーツフラペリアーノでいいんじゃない? クリームを低脂肪にしなよ」



フラペリアーノはどういう意味だ。



「なんだその呪文……分かった」



不安だけど、おすすめというならやるしかない。


ナツはこちらの顔を覗きこむと、なるほどという顔をした。



「あ~、じゃ、頼んできてあげるよ。ほら、兄行くよ」


「別に僕は君の兄ではないが」



文句を言いながらも、ナツに連れられレジに向かう。



一人残されてしまった。


壁の近くに移動して、二人を待つ。



それにしても、母親のこと、どうしようかな。


連れ出すっていっても……自分の家に匿う? 母親くらいの女性と一緒に住むの気を遣うな~。


お金出してもらって家借りるにしたって、どうなるか不透明すぎる。



「ユーキ君!!!!」



遠くから、聞きなれた声が聞こえる。


声の方向を見ると、店の出入り口に、トールが見えた。



(……なんでここにトールが?)



見つめている間に近づく姿をじっと見る。


めちゃくちゃ汗をかいてる。珍しい。


唖然としながら目の前まで駆け寄ってきたトールを見上げる。


秒を置かずに、大きな腕に抱き上げられた。



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