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おまけ・男は本命には怯えさせないように頑張るもの。【本編影響なし】

ふと目を開けると、知らない天井が目に入った。


「……?」


体を起こすと、それが先輩の家にあるベッドだと気付く。


(え、酔って寝てた?)


服はそのまま着ていた。


(なんてことだ。人のベッドを汚いまま使ってしまった)


ドアの向こうから、人の話し声が聞こえてくる。

たぶん、一緒に飲んでいた二人の話声だろう。


「一日でこんなに色んなことがあったら、ユーキは女の人生に嫌気がさすかもしれない」


ドアの向こうから漏れ聞こえる声に、足を止める。


(僕の話をしているみたいだ)


ドアってけっこう音漏れするな、と思いつつ聞き耳をたてる。


「何か手を打たなければいけませんね。上田さんって女性の時どんなことが幸せでした?」

「可愛くなることと、恋愛とセックス」


ブッと先輩が水を吹き出す音とともに、笑いをこらえる様に息を整える。


「真面目な話って分かってます?」

「いやだって、俺もまわりもそれしかなかったんだって!」

「祐樹の顔で言わないでください。ああ、魂が違うだけで、なんでこんなに違うんだ!」


どうしようもない上田の回答に、先輩がガックリとする。


「え~、でもやっぱり口説きまくってたほうがユーキにとっては幸せじゃないかな、と思いますよ」

「ユーキ君は絶対嫌がりますよ。そんなの」


そうだそうだと思う。

全員が上田みたいだと思ったら大間違いだぞ。


「でも、今は女の身体なので」

「関係あります? そんなの」

「ありますよ。俺、この体になるまで漫画とか溺愛恋愛ものとか読んでたんですけど、今はバトルものとか好きですもん」


自分はまだカードゲーム好きだけどな。一緒にしないでほしい。


「男性向けなら、バトルとエロ。女性向けなら恋愛と生活保障とか色々求めるものが違うんだな、と。ランキングとかもそれで占めてるから、やっぱり傾向ってありますよ。年齢もあるかもですが」

「なるほど、一理あります」


じゃあ、もしかして、今恋愛漫画見たら、ハマるのかな。

今までは、この表紙の二人が付き合うだけしかない話って何のために読むんだろうって思ってたけど。

好みなんて、年でも変わるから、ときどき確認してみないと何が良いかも分からないもんな。

話を聞きながら色々考えてしまう。


「でも、口説くのならそれなら今とあんまり変わってない気もしますね」


えっ、口説いてるってあったっけ。

正直、おでこのキスの時くらいしか分かってないんだけど。


「ユーキが恋愛一年生すぎて、なんか怖がらせたら終わる感じがすごい」

「それ、世の中の男がみんな本命に思ってることですから」

「ああ、だからいきなりキスとか体から始めようとする男は止めとけってことか」

「いきなり口とか体は誠実じゃない気がしますね」


恋愛一年生と言われて納得してしまうくらい、なるほどと思いながら聞く。

自分が対象なのがムズムズするし、よけい二人の前に出られなくなってしまった。


「ユーキ君は今日、上田さんの彼氏のせいで怖い目にあったので、当面は接触禁止です。厳守してください」

「分かってます。本当に何もないかもわからないし、助けた時にすごく血の気が引いた顔してたんで」

「あんな顔、二度とさせたくないって思いました」


一度止まった後、吐き出すように繋げた上田の言葉に、床を見る。

あの時、上田はこちらを見ても無言だった。

だけど自分がどういう顔をしていたかなんて、考えたこともなかった。


「私も連絡を受けた時は驚きました。被害はないって言ってましたけど、何かに少し怯えてる気がしましたし」

「気丈にしているだけで、理不尽な目に遭ったんだから、怖いよな、と」


暗い部屋の中、一人で自分の手のひらを見る。

もう震えてはいなかったけど、怖かったかと聞かれたら、すぐに怖かったと答えるくらいには怖かった。

朝の時には怖いと思わなかったのに、自分の力では制御できない理不尽な力が、本当に怖かったのだ。


「元カレを殴った時、楽しかったですか?」

「いや、正直、なんか楽しいってより、殺さなきゃなって思っちゃって」

「上田さんは理性を強化するところからですね」


先輩は軽く笑って、上田に飲み物を勧める。

和やかな雰囲気に、そろそろ部屋に入ってもいい気がしていた。


「上田さんは遊んでる感じなのに、ユーキ君が魂だと清純にしか見えないのが不思議ですね」

「世の中の清純派に見える女の半数が偽物だけど、ユーキは本物なのが良いすよね」


ドアノブに手をかけたまま、思わず止まる。

やめてくれ。

二人に魂が処女みたいな話をされているのはあまりに恥ずかしい。


「でも、朝のユーキはあまりにエロかった」

「本当にやばかった。しかも椅子に座ってない上に通路に転がってるから目立ってた。あまりに自分が見えていない」


羞恥心で死にそうだ。

変な目で見ないでくれ。


気が狂いそうだったので、ドアノブに手をかけて、一気に開ける。


「人を汗だく変態痴女みたいな目で見るな!!!」


めちゃくちゃでっかい声が出た。


二人はこちらを見て、目を丸くしている。


「ええ、いつから聞いてました?」

「僕はエロくない」

「そこからなら良かった」

「なにも良くない! 帰る!!!」


笑う先輩にを無視するようにドカドカと玄関に向かう。

上田はとぼけた顔で一緒に帰るための支度をササっとまとめていた。


「上田もなに関係ないって顔してんだ!」

「事実をいっただけなのに」

「事実じゃない!」


上田は理不尽~という感じの顔をしている。

自分も正直、怒っているというより、どう対処していいのか分からないって気持ちの方が強かった。


「先輩、お世話かけました。ベッドまで借りてしまって、なんかここまで連れてきてもらったのは助かりました」


靴を履きながら頭を下げる。


「でも、ひとを痴女みたいな目で見たのは許しませんから」

「はいはい。また来てくださいね」


楽しそうに笑っている先輩が憎らしい。

その反対に、寛大でいてくれる態度をありがたいと思う自分もいた。






先輩の家から駅に向かう。

別にこの道は初めてではないので迷うこともない。


「身体が変わってから、ユーキはどんな気持ち?」

「よく分からない。そっちは?」

「男の方が合ってるかなって気もしてる。力も強いし。こっちでもオシャレはできるし」

「そっか」

「女バフがないから、わりと愛想だけじゃ切り抜けられなそうな時もあるし、暴力もあるけどね」

「暴力あったんだ?」

「今日の朝、持崎部長に腹パンされましたね。俺の手が折れてたんで午後はなかったけど」


先輩が誰かの腹にパンチすることがあるのか。

でも、その身体鍛えていたわけじゃないし、なんでもないなら、たぶん手加減したよな。


「朝は電車の件があったからかな」

「うん。だから仕方ないかなぁと。でもたぶん女なら殴られなかったよ」


確かに女の子は叩いちゃダメだもんな。

いや、性別にかかわらず叩いちゃダメだけどさ。

自分はどうなんだろう。

この身体は弱い。顔はいいけど、人に振り回されてばかりいる。

だけど、他人が干渉してくることに前より拒否感がない。

前は毎日仕事終わりに人と深く話すことは気持ち的に難しいことだった。


これが女性ホルモンの影響だとしたら、良いことなのかもしれない。

人は寂しい生き物なのだから、他人と関わりあうほうが良いのだ。


でも、二人とこのまま進んでいくと、恋人関係になってしまいそうだ。

恋愛関係がいいことか悪いことか、そうならなかったらどうなるのか。

想像しようとして、頭の中で考えを打ち消す。


このまま元に戻らないと確定したわけじゃない。

不器用なまま、色々な考えを胸に押し込め、夜空を見上げる。


秋を感じる風は涼しくて、火照った顔にちょうど良かった。






キスから始まる関係だった友達の男は既婚者だったし、身体を求めてきた男と付き合っていた子は浮気されていたので、そんなもんだと思っています(止めたけど、もう始まったものが止まることはなかったですね)

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