白馬の騎士が助けに来てくれて、私の母国を取り返してくれると宣言してくれました
馬車から落とされて腰をきつくうった私はすぐには立ち上がれなかった。
そこににやついた男達が私を取り囲んだのだ。
「ようし、ここでやってしまえ」
ひげ面の言葉に男達が一斉に襲い掛かって来たのだ。
私は何もできなかった。
怖くて体が完全に固まってしまったのだ。
何でこんなことになったんだろう……
ルヴィに宮廷に連れて来られただけなのに、皇后様に祖父母の所に追放される途中でこんなことになるなんて……
この世界は前世の日本みたいに安全じゃないんだ。
私は男達に両手足を押さえつけられてもう一人が私の上に馬乗りになってドレスに手をかけようとした。
もう絶対に絶命だ。
「ルヴィ、助けて」
私は思わず幼馴染に助けを求めていた。
絶対に間に合わないと思いながら……
「ふんっ、今更、男を呼んでも助けなんて来ないぜ」
男は馬鹿にしたように言ってくれた。
その時だ。涙にくれる私の目に青空に光リ輝く、白い点が見えたのだ。
そして、それはずんずん大きくなって来た。
「ルヴィ!」
それは絶対に来てはくれないと諦めていたルヴィだった。
「はああああ、来れるわけは無いって」
男達が私の視線に合わせて空を見上げた時だ。
「リナの上からどけ!」
「「「「ギャーーーーー」」」」」
ルヴィの叫び声が響くと同時にルヴィが私を押さえつけていた男どもを蹴り飛ばしてくれたのだ。
一瞬の事だった。
私の上にいた男達はルヴィのキックを受けて私の上から瞬時に消え去っていた。
周りの木々に叩きつけられたりぶつかったりする音がしたが、どうでも良かった。
「ルヴィ!」
私はルヴィに抱きついたのだ。そして、大泣きしていたのだ。
「悪い。遅くなった」
そう言うとルヴィは私を抱きしめてくれたのだ。
「ギャーーーーー」
遠くで逃げようとしていた女騎士の悲鳴が聞こえたが、私はもうどうでも良かった。
私はルヴィの腕の中でその温かさに包まれていた。
もうだめだ。
私はルヴィなしでは生きられない。
私は自分の無力さをつくづくと思い知ったのだ。
誰に何と言われようと、こんな目に合うくらいならルヴィの傍にいると心に決めたのだ。
「ルヴィ。私はなんでもする。雑用でも召し使いでも下女でもなんでもする。
だから、あなたの傍に置いて、お願い!」
私はルヴィに頼み込んだのだ。
もうこんな目に合うのは嫌だ!
一人でいて狙われるなら、ルヴィの傍にいて守ってもらった方が良い。
「何を言っているんだ、リナ! リナは俺の婚約者だろう」
ルヴィは言ってくれたが、
「だって私は亡国の王女だからあなたとは婚約者になれに無いって皇后様に言われたし」
「そのくそ婆、なんて事を」
ルヴィは怒って言ったが、
「でも、私が亡国の王女なのは事実だし、皇后様の言われる通りだと思うの」
私は首を振って言った。
「何を言うんだ。リナ。お前は俺の婚約者だ。俺はこの剣に誓ったのだから。
この帝国では剣聖の剣の誓いは全てにおいて優先されるのだ」
「でも」
「でもも糞もない」
私の言葉にルヴィは否定してくれるんだけど……
ドサリ
その時にシロが口にくわえた女騎士を私達の目の前に落としてくれた。
「貴様は母の騎士か」
その顔を見てルヴィが冷たく言った。
「ふんっ、父はあなた達が殺したキルスナー伯爵よ」
「キルスナー伯爵? ああ、前皇帝と第二皇子の争いの時に第二皇子についていた」
ルヴィは思い出したみたいだ。
「私の父は第二皇子毒殺の件で殺されたわ。でも、父が自分の仕えている皇子を殺すわけはないじゃない」
「それで、逆恨みして、エンゲルについたのか?」
「そうよ。もう少しでその女を傷物にしてエンゲル王に売りつけられたのに」
女は笑って言ってくれた。
「黙れ! 女」
次の瞬間怒りのルヴィの鉄拳が女騎士の顔面に叩きつけられていた。
一瞬のことだった。
女は林の中に吹っ飛んでいったのだ。
「ああああ! お兄様、折角、王宮のエンゲルにいる裏切り者を吐かせるための大事な容疑者なのに。なんてことするのよ!」
後ろからいきなりクリスが現れた。
クリスの後ろには諜報のグーテンベルクさんを従えている。
「遅いぞ、クリス!」
「何言っているのよ。私はエンゲルの地下組織のガサ入れに付き合っていたのよ。その間はリナのことはお兄様にお願いしたわよね」
「俺もハウゼン侵攻の打ち合わせで忙しくて。まさか母が直接手を出してくるとは思ってもいなかったんだ」
「ふんっ、言い訳は良いわよ。ごめんね。リナ。こんな甲斐性なしの兄で」
「何言っている。そもそもリナには影の護衛もついていただろうが」
ルヴィが後ろのグーテンベルクさんを睨みつけると
「申し訳ありません。助けようとした所に殿下が空から降ってらしたみたいで……」
グーテンベルクさんが謝ってくれているんだけど……
「でも、どうやってルヴィは空から降ってきたの?」
私が不思議に思って聞くと
「シロは白馬じゃなくて天馬なんだ」
「天馬ってペガサス?」
「そうとも言う」
「えっ、じゃあ、シロって空を飛べるの?」
「当然だ。リナが嫌そうにしていたから飛ばなかったけれど、何なら飛ぶか?」
「絶対に嫌よ」
私はルヴィの声に大きく首を振ったのだ。
それでなくてもルヴィに連れられて3階から飛び降りさせられて死にそうになったのだ。馬に乗っているだけで死ぬのに空なんて飛んだら絶対に死ぬ。私は身震いした。
「まあ、いずれ空を飛ばしてやる」
ルヴィはなんか言っているが無視することにしたのだ。
「で、お兄様。これからどうするのよ。宮廷に戻るの?」
クリスが聞いてきた。
「宮廷は信用ならないな」
「それにお母様は亡国の王女のリナを第一皇子の妻にする気はないみたいよ」
「安心しろ。俺の代わりに帝位を継ぐのはクリスティーネがいると言い残してきたから」
ルヴィは笑って言うが、
「やめてよ。私が女帝なんてなったら、会合や儀式だらけで何一つ自分の自由時間が無くなるじゃない。お父様らみたいにあんな辛気臭いだけの会合とか儀式に出るのは嫌よ」
「俺も嫌だ。皇帝なんて権限なんてあってないようなもんだ。官僚達の言う通り動くなんて真っ平だからな。という事で俺はハウゼンに出兵する」
なんかルヴィが言っているんだけど。
「えっ、ルヴィ、それってどういう事?」
思わず私は聞いていた。
「エンゲルはここまで帝国をこけにしてくれたんだ。帝国としても黙っているわけにはいかない」
「でも、お父様や皇后陛下が認めるとは思えないけれど」
「剣聖の権限で3個師団くらいは動かせるだろう」
二人が色々言ってくれるんだけど、
「そんな事していいの?」
私は聞いていた。普通はありえない。
「帝国の権威が踏みにじられたのだ。剣聖の権限で出兵しても文句は言われない」
「剣聖ってそこまで権限があるの?」
「まあ、軍の最高責任者だからな。普通は皇帝の下にいるんだけど、突出することもあり得る」
苦笑いしてルヴィが言ってくれるんだけど。本当にそんな事して良いのか?
「ついでにハウゼン王国も復活させるのよね」
「当然だ。そうすれば俺とリナの結婚の障害はなくなる」
「えっ、でも、そんな事が許されるの?」
「当然だ」
ルヴィは頷いてくれるんだけど、なんかよくないような気がするんだけど。
「クリス、グーテンベルグ、侵攻は1ヶ月後だ。準備を頼む」
「仕方ないわね」
「本当にされるんですか?」
「やるったらやる。帝国がここまでこけにされたのだ。それも剣聖の俺の婚約者に手を出そうとしてくれたのだ。絶対に許さん」
ルヴィが言ってその後3人で相談を始めたんだけど……
ええええ! 本当に良いの?
私の承認もなしになし崩し的にハウゼン侵攻復活計画が始動したのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ここから一気にクライマックスまで突っ走ります。





