第六章「天満月国」 拾
オリジナル冒険BL風味ファンタジー。
王城へ到着すると、内部から犬狼の襲撃音が響いてきた。紫焔は慌てて王城の広場へと向かう。
以下、注意書きです。
・本作品はファンタジーであり、もし実在する人物や会社等と名前が同じであったり類似していても無関係です
・勝手につくった国の名前や文化等も出てきますが完全にフィクションです。現実にある国等は本作には出てきません
・本作品に出てくる全ての呼び名、動植物、無機物等は独自設定であり、もちろんファンタジーです
・戦闘シーン等が出てくる関係から暴力的、流血表現や残酷な描写が出てくる場合があります
・犯罪行為推奨の意図は一切ありません。あくまでフィクションです
当然ながら現実のものではない、空想の話であり設定であり展開となっています。
どうぞよろしくお願いします。
※無断転載、無断使用、無断編集・修正・加筆、自作発言等全て禁止
十.
七年前に炎上した天満月国の王城は、再建されて形を変え新しい姿になっていた。
城を中心に円状に敷地は広がっており、犬狼が暴れているのは門からほど近い広場である。
城からは最も遠い場所だ。しかし、城を守る役目を担う軍の駐屯所からは最も近い。
人目を避けながら駆けつけた紫焔は、広場を見通せる場所に身を隠した。
犬狼は体中に槍や矢を喰らい、咆哮していた。
巨大な尾が左右に揺れて石造りの階段が破壊される。これは城へ向かう道に続く階段だった。駐屯所の一つが破壊されている痕跡も見える。
犬狼がいかに大暴れしていたのかが窺えた。
紫焔は短刀を取り出し、刃を見下ろす。まだ僅かに毒が残っている。これでどこまでの効果を発揮するかは不明だが、目の前の犬狼を無視することはできなかった。
兵士たちが犬狼を取り囲んでいる。皆武器を手にしているが、どれもすでに獣の頑丈さに悲鳴を上げている様子だった。
──毒の効力は長く続かない。
毒として有効な時間は限られている。それが白城の里の見解だった。しかし、今、紫焔が頼りにできるものはこれしかない。
兵士たちの間を縫って犬狼に一撃を与えるのは困難に見えた。
紫焔は顔を上げ、下半分が壊れた石造りの階段に焦点を定める。傍の樹木を使って足りない高さを補い、枝から石壁に向かって飛び移った。
要がもしこの光景を見ていれば「曲芸」と呆れたことだろう。
石壁にしがみついた紫焔は、そこをよじ登ってなんとか階段に着地する。そこからさらに駆け上がり、犬狼の頭上に来るところで足を止めた。
兵士たちは犬狼を、犬狼は足元にいる兵士たちを警戒している。誰も上に注意を払っていない。そこには十分な隙があった。
紫焔は短刀を握り締め、階段から助走をつけて空へと飛び出す。
犬狼の頭上に飛び掛かり、頭部にしがみついた。
短刀を持つ片手を勢いよく振り下ろす。少しでも皮膚の柔らかい場所を刺さなければ。
目を狙おうとしたが、とてもそこまでは腕が届かなかった。結果、額付近に刃が刺さる。
紫焔の刃は犬狼の皮膚を僅かに傷つけた。しかし、反抗した犬狼が大きく身震いして首を振った。しがみついていた手が勢いで引き剥がされる。
紫焔はあっさり頭部から振り落とされた。ぎりぎりのところで受け身をとって地面を転がるようにして落下する。
さらなる追撃を覚悟して顔を上げた。次の瞬間、犬狼が四足を乱して地面の上に倒れ伏す。弱弱しい呻き声が聞こえた。息はある。
どうやら僅かな毒と小さな傷口では、思ったほどの効果は出せなかったようだ。それでも、足を止めることには成功した。
犬狼は全身を痙攣させている。
紫焔はほっと息を吐いて周囲を見回した。広場は酷い惨状である。壁や駐屯所が破壊され、兵士たちも多くが負傷していた。
幸い、命を落とした者はいないようだ。それだけがせめてもの救いである。
安堵する紫焔に、周囲からの視線が突き刺さった。再び顔を上げると兵士たちが皆一様にこちらを見ている。
「銀の髪……」
兵士の一人が呟いた。
紫焔は慌てて頭部に触れ、いつの間にか添え髪が落下していたことに気づく。先程、犬狼に振り落とされた時に飛ばされてしまったらしい。さぁっと血の気が引く。否、今更だろうか。
どちらにせよ、紫焔は犬狼の動きを止め注目を浴びている。
「捕えろ!」
頭上から冷ややかな命が下された。
おそらく王城から騒ぎを聞きつけて下って来た軍の幹部だろう。
紫焔は大勢の兵士に囲まれ、抵抗することもできずに捕らえられた。
*
すぐにでも第二皇子のもとに連れて行かれるかと構えたが、そう簡単な話でもなく、紫焔は近くの牢屋に押し込められた。
後ろ手に拘束されたうえ、その拘束具を牢屋の中の留め具に繋がれて行動を制限される。移動できるのは腕一本分程度の距離だけだ。もがいても拘束は外れない。
紫焔は衝動的に動いた自分を恥じた。しかし、後悔はない。動かなければ兵士たちが犠牲になっていた。
仲間を助けたいのに見知らぬ兵士たちを助けようとし、捕縛されて牢屋行き。なんとも情けない話だ。最優先すべき仲間の救出が結局叶っていないのでは意味がない。
あちらもこちらも助けたいと欲をかいた結果だ。これもある意味、二兎を追う者は一兎をも得ずか。
紫焔が拘束されている間も、外からは犬狼の声が聞こえている。
しかし、その鳴き声は随分と遠い。城下町よりも遠い場所で犬狼が暴れているのだ。
武器を持たない市井の人々が犠牲になってるのではないか。紫焔は己の不甲斐なさに奥歯を噛む。
まるで狼のような遠吠えが鐘の音のように聞こえ続けている。
その声は満月の夜、一晩中止むことはなかった。




