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三日間の翼  作者: ゆっか
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姉がよこした神秘的な荷物

一週間前に死んだ姉からラインにメッセージが入ったので驚いた。

以下のような文面だった。

「驚かせてごめんね。

冥府でこのメッセージを打ってます。

実はこの度、天界で大天使を拝命することになったの。

生前の行いが認められたみたいなのよ。

でも、まだこの世に心残りがあるの。

子供たちにちょっと、会っておきたいんだわ。

で、お願いがあるんだけど、三日間、預かり物をしてくれる?」

要するに、三日間蘇るというらしい。

姉も幼い子供たちを残しては、気分一新して成仏できないんだなあ。

なにしろまだ小学生と幼稚園だ。

姉のお葬式以来、ずっと泣き止まないのでみんな困っている。

非常識かもしれないが、蘇るのもこの場合に限っては良いことに違いない。

きっとあの子たちも少しは落ち着くだろう。

しかし、あの姉が大天使?

悪い人ではなかったが、冥界で何かにたぶらかされているんじゃないのか?

それに預かり物って何だろう…。


謎は翌朝答えが出た。

目が覚めると枕元に犬小屋ほどの大きな荷物があったのだ。

キラキラする星の絵が印刷された青い紙に包まれていた。

なんだなんだ。

この世の包み紙とは思えない美しさ。

とすると、まさしくあの世からの荷物に違いない。

僕の手は震えた。

姉のメッセージは世迷言ではなかったのだ。

恐る恐る包みゆっくりと解いていくと、中から、虹色に煌々と輝く大きな翼が現れた。

「これは!」

姉は三日後に大天使になるらしかったが、これこそはその大天使が付ける翼なのではないだろうか。

あまりにも恐れ多いことだった。

僕はありがたさ、姉の徳の高さに思わずその翼に向かってひれ伏し、「もう一生良いことばかりします」と誓っていた。


ところで、僕の日常はと言うと、恥ずかしながら無職で、一日中、ネットサーフィンに明け暮れ小さなアパートに籠りっぱなしの毎日を送っている。

あとは、時折気分転換と買い出しのために、近所のスーパーに行きがてらぶらぶら街を散歩するくらいだ。

でも、外で唯一の楽しみがある。

スーパーの前にあるコンビニに寄ってユンさんという若い女店員の姿を見ることだ。

ベトナム系の人ではないかなと思うのだが、僕の方を見て、にっこりと白い歯を見せ、ありがとうございましたあ、などと言うときは本当に可愛くて、買わなくても良い雑誌をつい買ったりしてしまう。


まあ僕の話はこれくらいにしておこう。

問題の姉の大天使の翼の存在は、そのように、ごく地味で穏やかな僕の生活に文字通り神々しいまでの非日常感をもたらした。

要は、机の上のパソコンに向かっていても、それが気になって気になって仕方がないのだ。

特段の仕事があるわけでもなかったし。

つい、いけないかな、と思っても、自然にもっとその翼のことを良く調べてみたくなる。

で、とうとう、机を離れて預かり物を検分することにした。

翼の色は前に述べたように、虹色だ。

それが光の当たる方向によって、色がそれぞれ変わっていき、ため息が出るほど神秘的。

形は鳩の翼を広げたものに酷似しているが、とにかく大きい。そして重さはといえば、驚いたことに、全く感じられないのだ。

手に持つと確かに羽の感触があるのだが、持ち上げると、軽いを通り越して、本当に空気を持っているようだった。

素晴らしい、さすがこの世のものではない物質だ。

しかし姉は大天使になったらこれをどうやって身につけるのだろう。

少し試してみたくなった僕は上半身を脱ぐと、翼の根本を肩甲骨の下あたりに当ててみた。

すると、不思議なことにすうっと羽から骨のようなものが伸びてきて肩甲骨にしっかりと嵌った感触があった。

えええっ!

もしかすると、大天使の翼が僕の体に生えてしまった状態なのか?

少し肩を上下させてみた。

翼がばっさばっさと音立てたかと思うと、予想した通り、僕の体は床から三十センチほど浮き上がった。


これはことによると、本格的に空を飛べるようになったんじゃないだろうか。

あまりの僥倖に理性を忘れ果てた僕は、人が不審に思うことなど意に介さず、即座に窓を開けて大喜びで空へ飛び出したのだった。

いいぞ、いいぞ、本当に飛べる。

なんという開放感。

なんという優越感。

僕は有頂天になった。

(続く)

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