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愛でる者①~どっちに用事があるの?~

読んでいただいてありがとうございます。今年ものんびり更新のアリアさんとエデルを見守ってくださいまして、ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

 エデルが一緒に来てくれたことに、タルーシャはほっとしていた。

 タルーシャだって、本当はこんなことはしたくない。

 一座の者たちが人質に取られていなければ、エデルを、仲間を売ることなんてしない。

 指定された場所にエデルと向かいならが、タルーシャは謝ることしか出来なかった。

 

「ごねんね、エデル。私、あなたが絶対に来てくれるって思ってたの。怒る?」

「なんで?皆が人質に取られて、俺が動かないとかないから。確かに今の俺は旅をする者ではなくなったけど、皆のことは仲間だと思ってるよ」

「うん。仲間を売りたくはないけど、こうしないと、座長たちが……」

「分かってるって。まったく、俺に用事があるのなら、最初っから俺の方へ来ればよかったのに。そうしたら、皆に迷惑をかけることもなかったし」

「……それは、ちょっと無理じゃないかしら。あなた、ずっと辺境伯様に守られていたから。あ、でも……」


 タルーシャは何かを思い出したように、ちょっと首を傾げた。


「どうかした?」

「あの、あのね。気のせいかもしれないんだけど、私にあなたを連れて来るように命じた貴族、ひょっとしたらあなたのことを女性だと思ってるかも……?」

「え?えーっとつまり、今の姿で判断してるってこと?」

「多分」


 タルーシャも確証はなかったけれど、相手はエデルのことを、辺境伯に守られているドレス姿の女、と言っていた。

 砂漠の王子を招いた宴で一緒だったらしいな、と言っていたので、間違いなくエデルのことを指しているのは分かったけれど、一度も女装とか辺境伯の夫とか言う単語は出て来なかった。

 タルーシャも実際にエデルに会って女性の辺境伯と結婚したのだと聞かなければ、このドレス姿の美女が辺境伯の夫だなんて信じられなかっただろう。

 エデルが本当に男性だということは、旅の一座にいる時に着替えなどを見たことがあったから知っている。何だったら、エデルが女装する時の衣装を貸したことだってあるし、生着替えを間近で見たことだってある。

 筋骨隆々とはいかないが、ちゃんと男の人の身体だった。

 だからこの姿でもエデルは男性なのだと理解しているが、何も知らない人間が見たら、エデルは女性にしか見えないのだろう。


「あれー?そうすると、辺境伯の夫としての俺に用はない?むしろ、俺のこと、辺境伯の夫だと思ってない感じ?」

「えぇ、そうかもしれないわ」

「じゃあ、俺、個人に用事があるのかな?でも、俺、アリアさんと結婚してからあんまり外に出てないんだよね。行っても、城があるシュレインの街の中だけだし。その時は女装してないから、ちゃんと男の吟遊詩人さん姿なんだけど……」


 ドレス姿と吟遊詩人姿では全く印象が違うと思うので、結びつける人間は少ない気がする。

 ドレス着てる時は、完全に性別詐欺だし。


「どこかであなたを見かけたのかしら?たまたま?」

「でも、アリアさん、つまり辺境伯と一緒にいるところは見られてるんだよね?普通、辺境伯と一緒にいれば、彼女の伴侶だって分からないかな?」


 うーんとうなったエデルに、タルーシャは首を横に振った。


「無理よ。当代の辺境伯様が女性なのは有名だもの。軍を率いている男装の麗人としてもね。その辺境伯様の夫よ。夫、つまり、男性。エデル、あなた今の自分の姿を鏡で見たことある?」


 いくら男装の麗人といえど、結婚したのだから、相手は男性だ。

 もう少ししたら、辺境伯の夫がドレス姿の麗人だという噂が広まるかもしれないけれど、今はまだ、女性の辺境伯が結婚したという噂しか巡っていない。

 この辺り、城で働いている人間は、さすがに辺境伯に仕えている者たちだけあって情報統制がきちんと取れている。

 エデルに関する、いわゆるとある使用人の話的なことは、一切出てきていない。

 なので、大多数の人間にとって、辺境伯の夫は男性なのだ。

 ちょっと言い方はおかしいが、女性の辺境伯が大々的にやった結婚式で、男性のはずの夫がウェディングドレスを着たあげく、最近では普段もドレスを着ているだなんて、誰にとっても想像の範囲外のことだろう。

 そうなると、辺境伯の傍に常にいる謎の美女は、辺境伯の血縁者かそれに近い存在だと思われていてもおかしくない。

 実際は、ただの溺愛されている夫なのだけれど。


「なら、俺自身に用事?言っちゃあ何だけど、俺を誘拐するメリットは何もない。むしろ、アリアさんを怒らせるだけなんだけど……」

「じゃあ、怒らせたかったんじゃない?」

「何のために?」

「さぁ?」


 理由が全く分からない。


「直接、聞いてみたら?」

「うん、そうする」


 タルーシャが足を止めた先には、風でも吹けば壊れそうなくらい老朽化が激しい建物があった。


「この建物の中で待っているそうよ」

「俺が行ったら、きっとすぐに皆は解放されると思う。そうしたら、なるべく遠くに逃げてくれ」

「分かったわ」


 その建物を二人で眺めながら、エデルはそう言ったのだった。

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― 新着の感想 ―
あらあら、エデル自身はともかく、美女として呼ばれているのに疑問を持つの? きっと性別を知って仰天して、それでもかまわないって・・・ うん、どうするんでしょうね、相手方。 アリアさんの怒りが爆発しそうで…
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