芸術都市アゲート⑯~いつでも誘拐を企む人はいる~
読んでいただいてありがとうございます。遅くなって申し訳ありません、どうしようかと色々と悩んでおりました。
「殿下が……」
「はい。遠目でしか見ておりませんが、その女性のことをずいぶんとお気に召したご様子でした。ただ、辺境伯の手の者が傍にいたので、諦めてしまわれたようです」
アゲートにある高級宿の一部屋で、いかにも貴族といった感じの青年が部下からの報告を聞いていた。
この部下はアゲートの学園内で講師をしていて、基本的には情報収集が役目の者だ。
男爵位を持っているので、この辺りの貴族との繋がりにも使っている。
今回、第二王子はお忍びで来ていたので、気付かれないように遠くから監視させていた。
なので、あまり細かい部分は見られなかったが、それでも第二王子がその女性を気に入っている様子だったのは何となく分かった。
「ふーん、何者なんだろうね、その女性は。辺境伯との関係は?」
「外見から北方の出ではないかと思われますが、辺境伯と気軽に話をしているようでしたし、侍女や護衛の者が常にいるので、身内の者ではないかと……」
「あの家に北方系の人っていたかな?だけど、まぁどうでもいいや。その女性、どうにかエスカラに連れていけないかな」
「辺境伯の手の者が周りを固めております。自分も殿下がその女性と楽しそうに話しをしている姿を遠くから眺めるだけしか出来ませんでした。内容までは確認出来ませんでしたが、殿下が楽しそうにしていたのは確認いたしました」
「殿下のお名前を出すわけにはいかないしね。それに殿下はお忍びだから、きっとお名前を明かしていないよね」
「はい。ですが、ここに来る前にフールームのイスハーク殿下を歓迎する宴で旅の一座と何やら話しをしている姿を見ました。ここら辺で北方での女性は珍しいと思ったので覚えております。その時は竪琴を持っていたので旅の一座の者だと思っておりましたが、その宴には辺境伯も来ておりましたので、旅の一座の者はおそらく以前からの知り合いだったのではないかと」
「元々が旅の楽師か何かなのかな?それで、今は辺境伯のお気に入りになったのか」
男はエデルがイスハークに絡まれる前に用事があって帰ったので、その後に発展した辺境伯夫妻と砂漠の国の王子との三角関係については知らなかった。
「その旅の一座を使おう」
「よろしいのですか?あまり旅の一座にちょっかいをかけると、後々面倒くさいことになりますが」
「ちょっとその女性を呼び出してもらうだけさ。旅の一座の安全と引き換えにすればいい」
「分かりました」
「うん、頼んだよ」
これで殿下に良いお土産が出来た。
そう思った青年は、上機嫌で微笑んだのだった。
「エデル、あまりふらふらとどこかに行かないようにな」
「分かってます、アリアさん。エッダと護衛から離れません。美味しい物にはつられません。あ、でも珍しい物があったら買ってもいいですか?」
「もちろん。だが、あまり大きな物だと持ち帰るのが大変だから、今回は小さい物にするんだぞ。それと、どこに行くにしてもエッダから離れるな」
「はい」
アゲートでの滞在もそろそろ終わる頃、アリアは仕事があるので、一人残されたエデルは侍女と護衛を連れて街に出ることにした。
クロノスたちにお土産も買ってあげたいし、まだまだアゲートの街探索も終わっていない。
「アリアさんも気を付けて行ってくださいね」
「あぁ、私は何とでもなるから大丈夫だ。エデルこそ、この間みたいに変なやつを引っかけてくるなよ」
「あはは、イスハーク様みたいな方は珍しいですよ。それに、俺、そんなに誰彼かまわず引っかけないですって」
「そうか」
彼女の夫が今日も自覚なしの天然人たらしであることを確認すると、アリアはエッダを見た。エッダがしっかりと頷いたのを見て、アリアも小さく頷いた。
何かあれば、エッダが何とかするだろう。
エッダにはいざとなれば辺境伯の名前を使うように指示をしておいた。
あとは、アゲートに辺境伯の名前を汚すような者はいないと信じるしかない。
「気を付けてな」
「はい」
アリアは、この時、どうして一緒に行かなかったのか悔やむことになるのだった。
エデルをどうやってエスカラに連れて行こうか迷っていたのですが、やっぱりお姫様は誘拐されるのが基本かと思いまして……。




