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芸術都市アゲート⑮~楽団~

読んでいただいてありがとうございます。

 辺境伯夫妻のいちゃつきを見せられた生徒たちは、大興奮していた。

 男装の女性と麗しき美女とのアレコレなんて、お年頃の子供たちの脳内を焼き切る勢いの想像力をかき立てる光景だった。


「しっかりお二人の姿を脳裏に焼き付けないと!」

「あの、題材にしても?あ、大丈夫ですか?はい、もちろん辺境伯様は存在そのものが格好良く、お嫁様は妖艶な美人さんのままでいきますので、心配はご無用です」

「小説家なんですが、これをどうやって表現すれば……!」


 様々な言葉が流れ飛ぶ中、平常運転中の辺境伯夫妻を微笑ましく見つめていた部下たちは、生徒たちの言葉に、その気持ちは分かるよ、と思ってこっそり頷いていた。

 

「さて、そこまでだ、生徒諸君。辺境伯ご夫妻は、遊びに来られたわけではないのだよ」


 ウェルギリウス老がざわつく生徒たちを穏やかな口調で静めたが、エデルたちが訪れた名目は一応アゲートの視察なのだが、新婚旅行も兼ねているので、純粋な仕事かというとちょっと違う気もする。


「講堂で、学生の有志たちによるちょっとした演奏会が開かれる予定になっておりますので、そちらを視察なさいますかな?」

「演奏会!ぜひ!」


 エデルの音楽は、世話になった一座の色々な奏者の人たちに教えてもらったので、弾き方や音楽の解釈の仕方がはっきりいって正統派ではない。

 同じ曲でも、悲しい曲だという人もいれば、その中に決意が見える曲だと言う人もいた。

 歌い手によっても違うので、エデルはそこら辺は他人に合わせて弾いていた。

 技術云々というよりも、その場の雰囲気を重視した弾き方をしていた。

 そもそも合奏するのも少人数だったし、時にはエデル一人だけで弾いていたので、大勢で音を合わせて弾く曲に興味というのものに憧れがある。


「やっぱり迫力が違うと思うんですよね。音の重厚感も重なりも、大勢だからこそ生み出せる音がありますから」

「そうだな。確かに部屋でエデルだけが弾いている曲を聴くのと、大部屋で楽団が弾く曲を聴くのとではずいぶん違う。エデルだけだととても澄んだ音だが、楽団だと迫力があるな」

「はい。俺はもう自分一人で弾くのになれちゃってるので、多分、合わせるのは無理なんですよね。楽団の音楽を聴くのは楽しいから好きなんですけど、一緒には弾けないかなぁ」

「合わせられないのか?」

「……多分?自分勝手な音しか出せないと思います」

「なるほど」


 軍でも集団行動が苦手な者はいる。

 そういうヤツに限って、単独で潜入とかさせると上手いのだ。

 なぜ集団行動が苦手なくせに、そういうところにはすっと入り込めるのか謎だが、たまに捕まえた盗賊とかの中に混じっていて自己申告されるまで分からない時がある。

 エデルもそういう存在なのだろうとアリアは理解した。

 それと同時に、アリアの想像の中で、どこかの盗賊団の中に入り込んでいるエデルの姿が思い浮かんだ。

 きっと旅の途中に捕まって、そのまま盗賊たちに監禁されて楽器を弾かされていたであろうエデルが、辺境軍が盗賊団を壊滅させた時にアリアと出会うのだ。

 そのまま辺境の城に連れて行かれて、今度はアリアのためだけに楽器を奏でることになるだろう。

 ……今とそう変わらないな。

 ふっと笑うアリアに、エデルが不思議そうな顔をした。

 どんな出会い方をしようとも、最終的にはエデルはアリアの隣にいることになるのだ。


「アリアさん?」

「何でもない。学生たちの演奏が楽しみだな」

「はい」


 少し変な想像をしてしまったが、エデルが私のもとにたどり着くまでに盗賊に誘拐されることがなくて本当によかったと、アリアは思っていたのだった。


 

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― 新着の感想 ―
きっとその盗賊団はエデルに絆されて、改心しているから辺境伯軍を見たら降伏してくれるんでしょう。 もしくはアリアに仲良くなった盗賊団が改心したと訴えに出てくるのでは? ※書いていて聖女ポジションに収まる…
アリアさんってば、なんて素敵な妄想。 最後は必ず私のもとへって、私のためだけにって言い切れるところがすごい。 確かにそう思いますが。
いや、実際巻き込まれ誘拐されたし··· アリアさんに助け出されて、今!愛しの!奥様!!にのみ弾いているのも一緒なのでは?
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