芸術都市アゲート⑭~うらやましいお嫁さん~
※『嫁』は誤字ではござらぬー。もう、嫁でいいでしょうー。
「あの、辺境伯閣下の伴侶の方は吟遊詩人だと聞いたのですが、本当ですか?」
学園内の視察をしていたら、アリアに声をかけられた少女が緊張しながらもそんな質問をしてきた。
「そうだ。私の夫は元々各地を旅する吟遊詩人だったんだ。帝国からあまり外に出たことのない身としては、その目で直に各地を見たことのあるエデルの知識は貴重なものだと思っているよ」
実際、何気なくアリアが言った場所について、エデルは自分の目で見た情報を色々と教えてくれた。
それも貴族視点ではなくて、旅をする者からの視点で、だ。
今までのアリアの周りの人間だと、どうしても貴族や商人の視点になってしまい、民の実状が見えてこない部分もあったのだが、エデルが嫁に来てからは一番下からの視点も加わった。
「そうですか。私も夢は、歌で出てくる古代都市の遺跡や、自然の風景などをこの目で見ることなんです」
「良い夢だな。絵で見る景色と実際の景色は全く違う。その存在に圧倒されることも多いだろう。私も出来れば各地を見て回りたいものだ」
アリアがうらやましそうにエデルを見ると、エデルはにこにこしながら答えた。
「歌や詩などで帝国にまで届く景色というのは、やっぱり違います。海の色でさえ、場所によっては全く違いますよ。青といっても、薄かったり深かったり、ちょっと碧がかっていたりと様々な様子を見せてくれるんです。それなのに海は全部の大陸と繋がっているんですよ。すごいですよね」
「そうだな。立場上、あまり他国には行けないのが残念だが、その分、エデルに聞いて我慢しよう」
「はい。俺が見てきたモノは全てアリアさんに教えますよ」
所構わずイチャつき始めた辺境伯夫妻に対する生徒たちの反応は二つに分かれた。
キラキラした目で二人を見ている者たちと、ケッという顔で見ている者たちだ。
女子生徒の大半がキラキラ派だ。
「うらやましいです!」
そのうらやましいという言葉がどっちにかかっているのかは謎だ。
辺境伯夫妻に対してなのか、直接色々な物を見聞きしてきたエデルに対するものなのか。
「俺のようにずっと旅をしていないと直接見られる機会は少ないけど、でも逆に直接見てしまったからこそ、歌や詩にうたわれているような印象を受けない場所もあったよ。面白いよね」
「ふむ。やはり己の目で見ると違ってしまうこともあるのか」
「はい。古い時代に歌われていた場所だと、今は全く違う風景になっていたり、作り手が感じた印象と自分が感じた印象が違う場合もありますから」
「そういうことも含めて、面白いな」
「俺たちの結婚式も、エスカラだとすっごく脚色されているかもしれませんよ?」
「どう脚色されていようがかまわないが、私がお前を溺愛していることだけはちゃんと伝えてほしいものだ」
「ア、アリアさん!」
顔を赤らめて、人前で何を言ってるの!、と抗議する辺境伯のお嫁さんは可愛かった。
きゃー、噂は本当だったんだー。辺境伯様が伴侶様を溺愛してるって。大丈夫です!そこは間違うことなくしっかり伝わってますから!
きゃっきゃしながら生徒たちはそう思っていたのだった。




