芸術都市アゲート⑬~たまごたち~
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アリアとエデルがアゲートに来た理由は、新婚旅行を兼ねたお仕事なので、ウェルギリウス老に案内されて学園内を見て回った。
芸術家を育てる学園なので、多種多様の生徒たちがいる。
エデルのように女装している生徒もいたので、ついつい手を振ってしまった。
授業中にもかかわらず、アリアとエデルが連れ立っている姿を見た生徒たちが、はっとした顔をして猛然と机に向かって何かを書き始めていた。
先生は綺麗さっぱり無視されていたが、いつものことなのか、そのまま授業を進めていた。
「えーっと、アレは大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。単位さえ落とさないのなら、授業中であろうとも芸術の神の導きが降りたのなら仕方ないのですよ」
「はぁ」
芸術の神の導きって何だろう?
閃きとか天啓的なものでいいのだろうか。
「敬愛する辺境伯夫妻の姿を、各々の得意分野でかいているだけですよ」
かいている、が、書くなのか描くなのかは、それぞれ次第というやつだ。
「アリア様、お許しいただけますでしょうか?」
「ふふ、芸術家たちの筆を止めるような無粋なまねはしない。だが、そうだな、ウェルギリウス老から見てこれは、という物があったら城に送ってくれ」
「かしこまりました。辺境伯様の城に置かれるとなれば、皆、気合いを入れてかくでしょう」
「絵画で有能な者がいたら、その者の紹介も頼む。家族の肖像画を頼みたいのだ。他の者にも頼むつもりではいるが、私が芸術家を、その卵たちを庇護していることを内外に示す意味も含めて、ここの生徒からも選びたい」
「それは、それは。選ばれた者は大変名誉なことであり、同時にものすごいプレッシャーがかかることでございますな」
「いい経験になるだろう。だがいいか、今回、私が求めるのは家族の肖像だ。エデルのこの美しさをそのまま描ける者を選んでくれ」
そう言っておかないと、違う方向性を持つ芸術家が来そうで怖い。
そういった者を否定するつもりはないが、今回に関しては、来てほしいのはあくまでも肖像画を得意とする者だ。
「分かっております。肖像画を描く者でございますね」
「そうだ」
ウェルギリウス老はふむふむと頷いた。
「何人か心当りがございますので、その者たちの絵を出来次第すぐに城に送ります」
「頼んだぞ」
さすがにここまで言っておけば、違う方向性の人間が来ることはないだろう。
アリアは、隣で目をきらきらさせている夫を見た。
ドレス姿もいいが、吟遊詩人の姿の絵も描いてもらおう。
アリアの執務室の机の上に飾るように、小さな絵も描いてもらいたいな。
すでにエスカラにある皇帝の私室の机の上に、エデルのウエディングドレス姿の絵が飾られていることを知らないアリアは、エデルの姿を机の上に飾れるのは自分ただ一人だけだと思って、何となく嬉しくなったのだった。
いつか、皇帝の机の上にある絵はアリアさんに回収されそう……でも絶対、複数個持ってると思うよ、アリアさん!




