芸術都市アゲート⑫~学園長には白いお髭がよく似合う~
読んでいただいてありがとうございます。タイトル、変更いたしました。「女帝とホイホイの夫」じゃあんまりだよねー、とか色々と考えた結果、「辺境伯の愛する傾国」になりました。傾国、で間違ってないと思ってるんですが、いかがでしょう? エデルの性別は、もう考えないでください……。
アリアによるお仕置きは後日のお楽しみだと言われて、そんなお楽しみは出来ればお断りしたいエデルだったが、意味ありげな手つきで頬を撫でられて諦めた。
クロノス、お父さん、お母さんに負けないからね。
心の中でそう誓ったが、心の中のクロノスは大変いい笑顔でこっちを見ていた。
……どうやら、クロノスもお仕置き推奨派らしい。
「エデル、学園長のウェルギリウス殿だ」
「初めまして、アリアさんの夫のエデルです」
アリアに紹介されたのは、立派な白い髭を蓄えた老人だった。
「おぉ、ようこそアゲートへ、エデル殿。お噂はかねがね聞いておりましたぞ。では、さっそくモデルに……」
「なりませんよ!ここの人たち、どうしても俺をモデルに何かしたいの?」
妖しい青年の次は、白いお髭のお爺さんにモデルにスカウトされた。
見た目伝説の賢者っぽいのに、アゲートの学園長らしく理論が通じなさそうだ。
絶対、この人もぶっ飛んだ思考回路をしているに違いない。
「えー、ダメ?」
「ダメです」
可愛らしく首を傾げても嫌なものは嫌です。
「第一、モデルにするならアリアさんの方がカッコイイじゃないですか!」
「アリア様にはすでに何度かモデルになっていただいておる。新しい風がほしいんじゃ!」
「新しい風?」
「そう、これを機に堂々と女装を始める者たちもいるかもしれんし」
「何を着るかは本人の自由!どうせ百年も生きないんだから、好きな服を着たらいいじゃん。百年後にはその肖像画を見て、イカしてる!って言われるかもしんないし」
「ほっほっほ。確かにのう、一理ある」
「どうせ着るのなら、その服に似合う動きをしないと格好悪いですよね。アリアさんがドレス着て剣を振り回してもカッコイイだけですけど、俺がせっかく綺麗なドレスを着せてもらったのに縮こまっていたら、格好悪いだけじゃないですかー。堂々と胸張って背筋伸ばしてアリアさんの隣に立たないと」
エデルの言葉にウェルギリウス老は爆笑した。
「いやー、アリア様、愛されておりますなぁ。アリア様の隣にドレスを着て堂々と立とうという青年は、中々おりませんぞ」
「そうだな。大抵の男は、私にドレスを着せたがる」
「アリアさんが着たいのなら、着てくれてもいいんですが。あ、その場合は、色違いとかのお揃いにします?クロノスにも作っちゃいます?」
ウェルギリウス老はさらに爆笑した。
「自分が男装するという発想はないのですかな?なんでお揃いドレス?しかも、ご子息分も?いやー、その発想はなかったわい」
「……エデル、私はともかく、クロノスの意見は聞いてやろうな」
夫が望むなら妻としてはその願いを叶えてやるのはやぶさかではないが、さすがに息子まで巻き添えは可哀想だ。
エデルなら、クロノス用のドレスを内緒だよーとか言って作って突然渡しかねない。
しかも、父の愛情がたっぷり籠もったそのドレスを息子が拒否出来るとも思えない。
父の喜ぶ顔を見たくて、きっと笑顔で着用してくれるだろう。
「……似合いそうだな」
クロノスのドレス姿を想像して、アリアは頷いた。
息子のドレス姿は、思った以上に似合いそうだ。
「さすがは私とエデルの息子だ」
ロードナイト家特有の黒い髪と青紫の瞳、母に似た顔立ち、父と同じでよく似合うドレス姿。
誰が何と言おうと、クロノスはアリアとエデルの息子だ。
「ですよね?絶対クロノスも似合うと思うんですよ!でもアリアさんの言う通り、男の子の姿の方がいいって言うなら、あの子の意志を尊重してあげないといけないですよね」
その前に、クロノス様は立派な男の子ですよ、アリア様も息子って言ってますから、と見ている者たちは、いつも通り心の中でツッコミを入れた。
しょんぼりしているエデルには言い辛いが、クロノスの憧れは母のアリアだ。
決して父ではないので、お年頃の息子はドレスを笑顔で父に返す可能性だってある。
親馬鹿の二人には黙っておこう、と誰もが思っていたのだった。




