芸術都市アゲート⑪~悪いことはしてなの~
読んでいただいてありがとうございます。
次回よりタイトルとあらすじを変更したいと思います。最初に書き始めた時のイメージでは、アリアさんが暴走する猛獣感があったのですが、どうも違う方向にいってしまったのでタイトルを変更いたします。ご了承ください。
エッダや護衛たちからの報告に、アリアはふふふと笑った。
先ほどの青年とはまた違うその妖艶な笑顔に、エデルはビビりまくった。
あれ?これ、ヤバくない?、鈍感なエデルでもそう感じるくらいに、アリアはいい笑顔をしていた。
「お仕置きだな」
「えぇー!なんで!俺、何にも悪いことしてないよ!ちょっと変な男に絡まれただけじゃん」
アリアは、必死なエデルの頬にそっと触れた。
「もし、その男がお前にこんな風に触れていたら、手袋の一つも投げつけていたところだ」
それって、有名な決闘の申し込み方法……じゃなくて、それは止めて。
「待って、アリアさん、こんなこと俺にしようと思うのはアリアさんだけだから!」
「砂漠の王子」
「あッ!」
「それから、その怪しい男」
「えーっと、ふ、二人もいましたね」
「ファーバティ伯爵」
「……三人目ぇ!」
いや、最後の一人はアリアと出会う前からの友人なので、それはノーカウントでお願いします。
「いいか、エデル、お前を狙う男は、お前が思っている以上に多いんだ」
「悲しいことに、俺のことを狙う女性が思い浮かびません」
「私がいるから、そこは別にいいだろう。だが、私が知るだけでも三人もいるんだ。これから先、もっと出てきてもおかしくはない。その辺の自覚がしっかり持てるようにお仕置きしよう」
「お仕置きって……あのー、お手柔らかにぃ」
アレやコレやされちゃうんだろうか。俺、無事でいられるかな?
エデルの頭の中で、それはすごい妄想が広がった。
ちなみにエデルの妄想の大半は、ラファエロからもらった本による知識だ。
そっち方面は淡泊だったエデルに、特殊な経験はない。
「それにしても『アンリ』か。ふふ、あっちは気が付いたかな?」
「へ?何を?」
「エッダはどう思う?」
全く意味の分かっていないエデルを放置して、アリアはエッダに聞いた。
「おそらく気が付かれたのではないでしょうか?」
「気が付いていながら、エデルの第二夫になりたいと言ったのか」
「はい」
「どこまで本気かは知らないが、いい度胸だ」
アリアは、アンリとは挨拶程度の会話しかしたことがない。それも最近は、エスカラに行っていないので、まだ彼が学生時代の話だ。
アリアが交流を持っていたのは、彼の兄の方だ。
だが、アンリについての情報は集めているし、そんな妖しい貴族は滅多にいないので、彼が誰だか確信を持っている。
それは向こうも同じだろう。
むしろエデルが吟遊詩人の格好でいた方が、素性はばれなかったかもしれない。
その場合、そのまま誘拐される危険性もあったのだが。
「どうなさいますか?」
「今のところは放置でいい。正直、あの兄弟のどっちが継ごうがそう変わらんからな。エスカラで好きなだけ権力闘争をしていればいい。ロードナイトに手を出さない限りは静観する。ただし、エデルに求婚してきた場合は、じっくり話をしなくてはいけないだろうな」
そのハナシアイは、言葉でですか?それとも拳?もしくは得物もありですか?
なんてことをエデルは怖くて聞けなかった。
「求婚されたって、俺、心変わりなんてしないけどなぁ」
アリアに惚れている自覚は十分に出来ているので、アリア以外の伴侶なんていらない。
むしろ、アリア一人じゃないと、身体が持たない気がする。
気力も体力も持たない。
それに、どっちが夫なのかはともかく、基本は一夫一婦制がいい。
「ほう」
小さな声で言ったつもりだったのだが、すぐ近くにいたアリアには聞こえていたようで、嬉しそうな顔をしていた。
エデルはちょっと気恥ずかしくなったが、どんなに深く考えてもアリアの方がいいに決まっている。
「……アリアさんだから、結婚したんです」
そうでなければ、根無し草の自分が辺境の地に留まるなんてしなかった。
アリアの夫になったことで、自動的に辺境伯の夫という地位が付いてきたが、それだって正直、自分でいいのかという思いはある。
「アリアさんが一番カッコイイです」
「そうか」
部屋の中にはエッダたちもいたのだが、アリアは人の目など一切気にせずに、エデルを抱き寄せたのだった。




