芸術都市アゲート⑧~膝をつく~
読んでいただいてありがとうございます。GW短期決戦小説に集中しておりました。そして、決戦に敗れて延長かかってます。よければそちらも読んでください。
学園長との約束の時間までまだ間があったので、エデルは学園内にある生徒が作った物を飾ってある部屋を見せてもらうことにした。
アリアは他の打ち合わせがあるので別行動になるが、エッタと護衛が付いてきてくれた。
もし領主の夫が気に入って作品を買い取る、などということになればその作品を作った者の評価が高まることになるので、学園側にもメリットがたくさんある。
「あ、エッタ、これ見て、綺麗な服だね」
「はい。色使いがとても独特ですね。どこかの民族衣装のようです」
「鮮やかだなー。原色がここまで強いなんて、まるでアリアさんのように強烈な印象を残すね」
「エデル様のイメージはあちらの雪の女王の衣装ですね」
「舞台衣装だから、光が反射するように色々と付いてるんだ。あ、あっちの陶磁器も綺麗だよ」
芸術と一言でいっても、様々な物がある。
代表的なものは絵画や陶器といったものだが、舞台衣装だって立派な芸術品だし、台本だってそうだ。
「でもやっぱり絵が一番目立つね」
「はい。アゲート出身の画家を何人か知っておりますが、皆様、腕は確かです」
「そっか。じゃあアリアさんが家族の肖像画を頼むって言ってたから、その人もアゲート出身なのかな」
「どなたに描いてもらうのか分かりませんが、領主としても領内の都市であるアゲート出身の画家に頼むと思います」
「だよね」
そんな風にエッタとしゃべりながら絵を眺めていたら、ダダダダッという音が聞こえて、細身の男性が息を切らしながらエデルの前に走ってきた。
「はぁ!はぁ!はぁ!あ、あの、私の絵のモデルになってください!!」
「え?嫌」
「え?そんな速攻で断らなくても」
「だって、何か、イケナイ感じがするし。はあはあ言ってるあたり、変態さん?」
「これは走って来たからです」
「でも、嫌」
「なぁんでぇー!」
男性ががっくりと床に両膝を付いた。
四つん這いになって涙する姿を見ると、こっちがちょっと変態になった気分だ。
別にそんな格好をしろと強要した覚えはない。
「何でって。むしろ、どうして俺?」
「だって、すんげー私の理想の女性なんですよ、あなたは。って、俺?」
「そう、俺」
「俺?」
「うん」
今、きっと男性の脳はものすごい早さで動いていると思う。
理解しようとする理性と理解したくない感情がせめぎ合っているところだろうか。
「そ、その姿、は?」
「趣味」
主に奥さんに仕える侍女たちの。
でも、嫌じゃないし。
「似合うだろ?奥さんも喜んでくれるから、最近はこっちの姿でいることが多いかな」
「……デモ、イイ」
ようやく『理想の女性=女装趣味の男性』ということに感情が納得したようだが、男性はうっとりとした目でエデルを見ていた。
あれ?これってヤバイ系の目じゃない?
「えーっと、よくないと思います?」
「イイデス。アナタガイイデス」
ちょっと言葉がおかしくなっている。
男性は四つん這いの体勢から勢いよく土下座スタイルにチェンジした。
「私の絵のモデル、お願いします!!」
「マジ、ムリ」
しっかりと下げられた頭は素晴らしいが、さすがにこの変態さんはムリ。
エデルの言葉に、男性は涙を流しながら倒れ込んだのだった。




