芸術都市アゲート⑦~家族の肖像~
読んでいただいてありがとうございます。らぶらぶッス。
今日は学園長に会うことになっているので、エデルも正装だ。
昨日までの身軽な服装ではなく、髪を整えて化粧をしっかりとしてドレスを着た。
「ふむ、今日もエデルは美しいな」
「アリアさんはカッコイイです」
「ふふ、惚れ直してもいいのだぞ?」
「何度でも惚れ直します!」
辺境伯とその伴侶は、今日もいつも通りの激甘な会話をしている。
その姿を見て、今日も辺境は平和だなーと侍女たちが感じてしまうのは、この二人にすっかり慣れたせいだろうか。
エデルがようやく告白したと言っていたが、その前からこんな調子だったので、表面上は何一つ変わらない日々だ。
あとは、エデルがいつ喰われるか、というだけの話だ。
時間の問題ではあるが、予定が色々とあり、旅先で動けなくなるのは問題なので、そこは城に帰ってからだろう。
「緊張しますー」
「特に何かあるわけではないから、そこまで緊張することはない。定期的にこうして訪れて報告を受けないと、アゲートの街を丸ごと改造するような連中なだけだ。エデルにおかしなことはしないさ」
「芸術家の方って、ちょっと変わったこだわりを持つ方が多いですからねぇ」
こだわりに全てをかけているような人もいるので、そこら辺は要注意だ。
下手に突くととんでもないことになる。
というか、すでにアゲートの街は色々と改造済みだったのに、まだ改造するつもりなのだろうか。
「そのうち、迷宮都市とか呼ばれそうで怖いな。学生や何も知らない旅人が迷い込んで出られなくなったら困る」
「そうですねぇ。学園に辿り着けないと、授業が受けられないですからね。そうなると、留年まっしぐらですね」
「留年で済めばいいがな」
下手をしたら命が危なくなってしまう。
「さて、学園長に会いにいこうか」
「はい。あれ?今更ですが、俺ってドレス姿でよかったんですか?」
結婚式の時はアリアの格好良さを引き立てる役を負った者として、アリアの隣に立つためのウエディングドレス姿は必須だったが、よく考えたら今は別にドレス姿じゃなくてもよかったのでは?
最近、城の中で誰かに会う時はドレス姿が多かったので、今日も普通にドレスを着させられても特に気にしていなかったが、ひょっとしてアリアの夫としては男装の方が正解だったのではないだろうか。
「ん?あぁ、かまわんよ。芸術家はそういうのも気にしない。むしろ、絵のモデルになってほしいと請われるかもしれんな。受けるかどうかは好きにしていいが、その場合は領都の方に来てもらわなければならんな。お前は私の夫なのだから、ここに置いて行くわけにはいかない」
「最低条件は領都に来ることですね。いや、その前に俺をモデルにしたいっていう酔狂な人物なんていますかねぇ?」
エデルはそう疑問に思ったが、結婚式の時に王都から来た宰相が絵師を連れてきており、その彼が熱心にエデルをスケッチしていたことをアリアは知っていた。
宰相にどういう思惑があるのかは知らないけれど、おそらく王都エスカラに帰った絵師は、エデルのウエディングドレス姿の絵を完成させるのだろう。
宰相には、完成したら最低一枚はこちらにも送るように伝えてある。
ため息を吐きながら了承していたので、その内送られてきたら、城内の目立つところに飾ろう。
「俺を描くよりアリアさんの姿を描いてほしいなぁ。小さいのでいいから、寝室に飾りたい」
「……飾るのか?私の姿絵を?」
アリアがそう聞くと、エデルは少し顔を赤らめてそっぽを向いた。
「……その……仕事でアリアさんがいない時もあったので……」
会えない日は、少し寂しくて……。
小さくぼそぼそと言われた言葉がしっかりと聞こえたアリアは、くすりと笑ってエデルを抱きしめた。
「ふふ、確かに寂しい思いをさせてしまうこともあるな。そうだな。帰ったら、夫婦の肖像画を頼もうか。それとクロノスを入れた家族の肖像画も」
「はい。楽しみです」
「だが、寝室には飾らない。今までは別々だったがこれからはずっと同じ部屋で寝るのだし、寝室でお前の興味を引くものは生身の私だけでいい」
「……はい」
エデルはアリアの腕の中で、顔を赤らめたまま頷いたのだった。




