芸術都市アゲート④~
遅くなりましたが、今年もこの二人をよろしくお願いします。
「うわー、見てください、アリアさん。金ぴかです」
「……私の趣味ではないが……まぁ、好きな者は好きなのではないかな」
黄金色に装飾されたグランドピアノが、部屋の中央に展示されていた。
その奥には、様々な弦楽器がガラスケースに入れられて展示されていた。
「弦楽器は作り手でけっこう音が変わるので、高い楽器はものすごく高いんですよね。滅多に表には出てこないし、偽物もけっこうあるそうです」
エデルは知らないが、エデルが愛用している竪琴は名工と呼ばれた人間が作った楽器だった。
けれど偏屈だった彼は、自分が作った楽器の中でも特にお気に入りだった物には、見える部分に制作者の印は残さず、見えない場所にそれを残した。分解して、なおかつ数ある彼の作品の印を知っていて初めて気が付くことが出来る。
どこかの貴族の屋敷の奥深くに飾られるよりは、無名の人間でもいいのでとにかく弾いてほしい、そんな願いが込められていた。
それでも彼の作品だと知られると貴族に買いとられ、彼の望まない保管の仕方をされている物もある。
「どんなに高価な楽器でも、その楽器に相応しい弾き手と出会わなければ宝の持ち腐れになってしまうのは確かだな。私は、エデルの竪琴の音が好きだ。あの竪琴が安物だろうが何だろうが、あの音が好きだな」
「俺もあの子の音が好きです。何か、いつも俺の気持ちを察してくれているっていう感じがするんですよね。あの子は大金を積まれても手放せないです」
「そうだな。エデルがいつか年を取って弾けなくなったら、城に保管しておけばいい。そのうち、あの竪琴が気に入る奏者が現れたら、その者に渡せばいいさ。その時は、新しい持ち主に弾いてもらって一緒に聴こう」
いつもアリアはさらっとエデルに将来の話をする。
話の中ではいつだって、エデルはアリアの傍にいることになっている。
そう思ってエデルはふにゃりと笑った。
「そうですね、一緒に聴きましょうね」
「エデル以上に弾きこなせる人間はなかなかいないだろう。そうなると、あの竪琴はいつまで経っても城に保管されることになってしまうな。まぁ、仕方あるまい。そうなったら子孫に託すしかないな」
子孫。それがクロノスの子孫になるのか、それともアリアとエデルの血を継ぐ人間になるのかは分からないが、エデルの死後、竪琴は大切に保管されていくのだろう。
「ここにある楽器たちも、誰かが弾いてくれればいいんですけどね」
「学園長に、飾るだけではなく使うように伝えよう。場合によっては、辺境伯からの貸し出しという形を取ってもいい」
せっかく楽器として生まれてきたのだ。誰かに大切に使ってもらいたい。
「良い楽器の音を聴くのは、学生たちにもいい勉強になると思います」
「ふふ、新たな芸術家が生まれるかもしれんな。それはそれで楽しみだ」
芸術方面が少々苦手だと自覚のあるアリアなので自分で創作したり弾いたりはしないが、絵一枚、音楽一曲で人の心に響かせることが出来ることを知っている。
アリアはエデルの手を取って、指先に軽くキスをした。
「この手は私だけの音を奏でる手だ。エデルの手であると同時に、私の大切な手でもある。私が守るゆえ、無茶だけはしてくれるなよ」
「ア、アリアさん」
突然の出来事に、エデルは顔を赤く染めながら頷いたのだった。




