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芸術都市アゲート③~楽器の博物館~

読んでいただいてありがとうございます。

 その博物館は、外側も芸術作品だった。


「おぉー、すごい。正方形の組み合わせだけで、こんな風に飾れるんですねー」


 正方形が微妙にずれて重なっていたり、斜めになっていたり、とにかく外側は正方形の組み合わせだけで装飾されていた。

 都市の門が情緒豊かな神話をモチーフにしたものなのに、こちらは無機質な形だけで構成されていてるので、統一感が全くない。何なら楽器の博物館なのに、外側だけ見ると楽器が関係しているとは思えない。


「芸術には、古い物も新しい物もある。まぁ、統一感というものは一切考えてないようだな」


 正方形の組み合わせの博物館の隣には、古代の神殿を模したらしい建物があり時代がめちゃめちゃだ。

 アリアはこの街はそんなものだと納得しているようだが、英雄の話や古の建物に情緒を感じて作詞作曲するエデルとしては、もうちょっと統一感がほしいところだ。

 この街での物語を勝手に想像して話を作るにしても、隣との違いがすごすぎて、何だか意味が分からないものになってしまう。エデルの曲を聴いて、実際に見に来ると、とても残念な結果にしかならなさそうだ。


「せめて、区画で区切るとか何とかしてほしかったなー」

「混沌こそ芸術という者もいる」

「俺は、それなりの規則性を持った芸術の方が好きです」


 こうバラバラだとどうしていいのか困ってしまう。


「まとめて見ようとするからいけないのかな。一つ一つ見ていけば……でも、時代が……いや、これはこれで有りなのかな」


 困った顔をしているエデルを微笑ましくアリアは見ていた。


「エデル、そろそろ中に入ろうか」

「そうですね」


 肝心なのは、展示されている楽器だ。

 エデルはそれなりに色々な楽器を演奏することが出来るが、それはあくまでも旅をしながら弾けるものや、どこの貴族の屋敷にも一つはあるピアノといったものばかりだ。

 ここには古い時代の楽器や、今は廃れてしまった楽器なども展示してあるので、見るのを楽しみにしていた。


「何か弾いてみたい楽器があったら教えてくれ。屋敷に取り寄せておく」

「いやいや、そんな」

「ここにあるのはさすがに無理だが、まだ作られている物もあるし、古い物でも伝手があるので何とでもなる」


 構造は分かっているので、職人に作ってもらうことも出来る。


「ふふ、音楽はエデルの好きなことであり、大切なものだろう?私もエデルの音が好きなのだ。せっかく辺境伯(わたし)という権力も財力もある者が傍にいるのだ。好きなだけ利用すればいい」

「えーっと、じゃあ、お言葉に甘えて、俺が気になって弾けそうなやつをおねだりしてもいいですか?もしくは、アリアさんが気になるやつ」

「私の?」

「はい。どのみち俺はアリアさんがいるところでしか弾きませんから、アリアさんが聴いてみたいやつがあったら、言ってください」

「ふむ、そうか。私の気になる楽器か」

「どんな楽器でも弾いてみせますよ」

「そうか、それも楽しみだな」


 そんな会話をしながら展示されている楽器を順番に見ていく。

 古い時代のどこかの太鼓や笛などは音の想像がつくので、音そのものよりリズムが重要だったのだろう。

 こっちの弦楽器は、使われている弦の材料は何だろう?魚の髭かな?

 あ、これ木がこの国にはなさそう。

 夢中になって見ていると、一つの楽器をじっと見つめている少女がいた。

 少女が見ている楽器は、エデルも使っている竪琴だった。

 持ち運びがしやすいタイプのもので、ごくありふれた楽器の一つだ。

 ただ、その竪琴は弦が張られておらず、細かな装飾が施されており、弾く物というよりは芸術作品として飾っておくような楽器だ。

 エデルはその少女が他の楽器を一切見ずに、竪琴だけをずっと見ているが気になった。


「どうかしたのか?」

「アリアさん、あの子、なんであの竪琴だけをずっと見ているんでしょう?」

「……好き、というより、どこか悲壮感まで漂うくらいに真剣な眼差しだな」

「はい。あの竪琴、装飾はすごい細かいですが、作られたのはそんな昔ではないと思います」


 アリアとエデルが見ていることに気が付いたのか、少女ははっとしたように二人の方を見て、急いで反対方向へと歩いていった。


「あ、いっちゃった」

「そうだな。着ていた服は学生服だったから、この街に住んでいる人間だろう。気になるなら調べようか?」

「いえ、止めておきます。俺たちは、新婚旅行で来ているだけですから」

「まぁ、そうだな。私としても、夫がどこかの王子に続いて女学生をたらし込むのは気に入らんしな」

「たらし込むって、イスハーク殿下は……否定出来ないところが悲しいですが、彼女をたらす気なんてないですよ。ちょっと気になっただけです」

「そういうことにしておこう。もてる夫を持つと苦労するな」


 一般的なもてる夫とは少し違う気がしなくもないが、旅をしている間にそういう意味で危なかったことは何度もあるので、否定しづらい。


「いざとなったら、かっこいい奥さんに頼ってもいいですか?」

「任せておくがいい」


 頼りになる奥さんの腕に自分の腕を絡ませながら、エデルはにっこり笑いかけたのだった。  

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