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芸術都市アゲート①~芸術の門~

読んでいただいてありがとうございます。

 その城門の扉に書かれている言葉は、人を恐怖へと陥れる。


『この門より先、全ての希望を捨てよ』


「……ってアリアさん、何あれ?」

「芸術の一種らしいぞ。神話に出てくる絶望の門を作ったんだそうだ」

「え?わざわざ都市の城門として?」

「これくらいのユーモアとこれが分かる知識は最低限持って入れ、そういう挑発だな」


 芸術都市アゲートに入る門の扉も芸術作品だから、一度外から見ておくといい、と言われて馬車から出て見れば、真っ先にその言葉が目に入ってきた。

 とはいえ、扉に施された彫刻は見事な物だし、門の外に設置されている戦士の像なんかも美しい肉体美を思う存分披露していた。

 なぜ全裸で肝心な部分を葉っぱで隠しているだけなのかは、触れないでおこうと思っている。


「この地獄の門は芸術作品だが、ある意味正しいな。私たちのような者はともかく、本格的に芸術を学ぶ者たちにとってあらゆる芸術の才能を持った者たちが集まるこの場所は、地獄のような場所なのかもしれん。落ちこぼれたら、容赦なく叩き出される」


 アゲートの芸術学校は、基本的に授業料が必要ない。

 代わりに年に一回行われる芸術祭りには必ず参加しなくてはいけない。

 この芸術祭で、全ての生徒は何らかの形で己を表現し、絵画や彫刻などはその作品を売る。

 そういった物が学校の資金源でもあり試験にもなっていて、この場所に残れるかどうかが決まるのだ。


「ひえー、怖いですね」

「エデルのような奏者たちはミニコンサートをやるのだが、心が籠もっているかどうかが一番重要な採点になるそうだ。観客はお金を払うに相応しい演奏だったと思えば、帰りに自分が思う演奏代を払う。期間中はあちらこちらでそういった催しが開催されているんだ。ここに来る客は、厳しいぞ。何せ目も耳も肥えている。毎年、芸術家の卵たちを見極めているからな」


 実際、過去の祭りで高額の値が付いた芸術家たちは、今や押しも押されぬ売れっ子ばかりだ。


「厳しいが卵たちの作品ゆえに、変わった作品であっても一人くらいは興味を持つ者が出る。そしてその卵に先行投資して新しい芸術も生まれる。私は全く芸術系の才能はないが、領主としてこの都市のことは気にしている。放っておくと都市が変な風に改造されるからな。あの門だって、何代か前の時にいきなりあんな風に変わっていたんだ」


 以前は、ごくごく普通の門だったのだが、当時の辺境伯が五年ほど視察に訪れなかったらあんな風に変えられていた。咎めることなく笑って許したそうだが、さすがにそこからは一年から二年の間に一度は必ず訪れていたそうだ。さすがに今の時代にそんなことをする者はいないので、そこまで頻繁に領主が視察に訪れることはない。


「エデルも入学試験を受けてみるか?」

「それって筆記と実技ですよね?」

「当然だ。筆記試験は、一般常識の試験らしいぞ。それよりも大切なのは実技だ。つたない演奏でもそこに光るモノがあれば合格するそうだが、難関だと聞いている」

「俺は受けないですよ。だって、俺の演奏はアリアさんのためだけにありますから。その他大勢はアリアさんのおまけです。他の人間がどう評価しようが、アリアさんが俺の演奏を好きだと言ってくれる限り変えませんし、アリアさんの気持ちが俺にとっては一番大切で、アリアさんが褒めてくれることが一番嬉しいことですから」


 どこまでもアリアが一番だというエデルの言葉に、アリアは微笑んだ。


「ふふ、そうまで言われると少しくすぐったいな」


 アリア様、聞いてるこっちはくすぐったいどころではありません。

 そうでしょうね、ってうのは十分理解してますけど、全開ののろけはせめて城の中だけにしといてください。ほら、免疫のないアゲートの民や関係ない一般の人たちが、顔を赤らめたり身体をもだもださせたりと、何かおかしくなってるじゃないですか!

 通常仕様の領主夫妻を知らない人たちに、初っぱなから何をぶち込んでるんですか!

 この門は、アゲートでも有名な観光スポットなので大勢の人がいる。そんな中で白昼堂々と大勢の人前で始まった領主夫妻による日常会話は、聞き耳を立てていた人々の脳にクリティカルヒットしたようだった。

 領主夫妻の周りを守っている騎士たちは免疫があるからいいけれど、ここにいる人たちに免疫はない。

 そして、騎士たちの心の声は二人の世界に入った領主夫妻には届かない。


「アリア様、エデル殿、そろそろ中に入りませんか?」


 勇気ある騎士団長の横入りに、上機嫌のアリアは頷くとエデルの手を取った。


「さぁ、行こう。エデルに新しい出会いがあるといいな」

「知らない楽器があると嬉しいです。アリアさん、俺が弾けそうな楽器があったら買って帰ってもいいですか?ちゃんと弾き方も教わりますし、手入れもしますので」

「エデルが楽器を大切にしているのは知っているから、かまわんよ。だが、ちゃんと妻である私のために弾いてくれ」

「もちろんです」


 男装の麗人に手を引かれてしゃべる男装の麗人の姿に、夫婦?という疑問形があちらこちらで浮かんでいるのは仕方のないことだった。

  

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