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新婚旅行に行こう⑩~口説かれるのを待っています~

読んでいただいてありがとうございます。

 エデルの体調も良くなったことだし、アリアは午前中には旅に出るつもりでいた。

 そもそもここに寄ったのは予定にないことだったし、まさか砂漠の王子(イスハーク)辺境の姫(エデル)にあんなに惹かれるとは思ってもみなかったことだった。

 いくら新婚旅行だと言っても、エデルのあの妙な人寄せ力は油断ならない。

 これ以上、恋敵……にもならないが、エデルに執着する者が出てくるのも面倒くさい。


「もう、行かれるのか」


 イスハークが至極残念そうな顔をしたが、エデルはけっこうにこにこした笑顔だった。


「はい。馬車に酔って俺が体調を崩していただけですから。今朝はちゃんと薬も飲んだし、もう馬車には負けません」

「しかし、昨日の今日だろう?もう少しここにいても……」

「ここに来たのは予定外のことですから。せっかく忙しいアリアさんが時間を作ってくれた新婚旅行なんです。早く目的地に着きたいですね」

「そ、そうか。新婚旅行……そうか」


 何だかんだ思っていても、エデルにはちゃんとアリアの伴侶だという自覚があって何よりだった。

 おかげで何気ない言葉でイスハークにダメージを与え続けているが、人の夫にちょっかいをかけたのだから仕方がないと辺境の者たちは思っていた。


「ふふ。普段、領主として忙しい分、寂しい思いをさせてすまないな。今は、エデルとずっと一緒にいられる貴重な時間だな」

「お仕事ですから。それに、アリアさんの決断一つに大勢の人間の命がかかっていますもんね。俺はそうやって仕事をしているアリアさん姿を見るのが好きです」


 さすがにこれだけのものを見せられたらイスハークも諦めるだろう。

 そんな風に辺境の者たちはもちろん、アリアも考えていたのだが、イスハークはこれから先も隙を見つけてはエデルを口説くことをやめない男となる。他の女性のものなのだから余計に欲しくなったのと、何を言ってもふわっとかわしてアリアしか見ていないエデルに、どうしても自分を見て欲しかったからなのだが、その分、さらに夫婦の仲の良さを見せつけられることになるのであった。




「何か、ラファエロとはまた違う感じで人を口説く人でしたねー」


 馬車の中で、エデルはイスハークのことを思い出してアリアにそう言った。

 ラファエロはどちらかというと、優雅に言葉遊びを交えて口説くが、イスハークはその情熱を真っ直ぐにぶつけてくるような感じだった。

 好みは人によって違うが、どちらの男性も間違いなくカッコイイ男の部類に入るだろう。

 どちらのような男になりたかったかと聞かれれば、ラファエロの優雅さも、イスハークのような頼りがいのある力強さも捨てがたかったので、出来れば二人の良いとこ取りをしたい。


「エデル、それだとイスハーク殿の顔でファーバティー伯爵のような口説き文句が出てくるがいいのか?」

「……それはそれで嫌かなー。イスハーク殿下は真っ直ぐな言葉が似合うし」

「私もそう思う」

「んー、俺があの二人のような感じでアリアさんを口説いたらどうします?」

「ほう?エデルはあれをやれる自信があるのか?だが、そうだな。妻として夫から口説かれるのは嬉しいことだな。試しにやってみてくれ」


 楽しそうに笑うアリアに、エデルは、しまった、言うんじゃなかった、と後悔しながらも、一生懸命イスハークやラファエロが言いそうな言葉を思い浮かべた。


「えーっと、美しい方、今宵は一緒にいてくれますか?」

「……ダメだな。全く心が籠もっていない。セリフを言っているだけにしても棒読みがすぎる」


 くすくす笑うアリアに、エデルは落ち込んだ。


「やっぱり無理です。あの人たち、どうして真顔でこんな言葉をすらすら出せるんですか?俺なんて、今の言葉を出すので精一杯ですよ」

「舞台のセリフを思い出せばいいのではないか?舞台ならばもっと色々なセリフを言うのだろう?」

「舞台上だけのことなので、あれはお仕事だと思えば出来ますけど、アリアさんを口説くのはお仕事じゃないじゃないですか。心の籠もってない言葉は出せませんよー。ちゃんと俺の言葉で伝えたい」


 ふぅ、と息を吐いたエデルにアリアは、あの確信犯二人よりエデルの方がよっぽど危険だと思っていた。

 あの二人は、言葉の意味も相手にどう伝わるのかも分かって口説き文句を使っているが、エデルの場合は、ほぼ無意識だ。

 アリアに言う言葉は全て自分で考えたいと言った夫を、どうやって襲ってやろうかとアリアが考えてしまったのは、仕方のなかったことだと思う。

 エデルは、今がまだ昼間で、動いている馬車の中だったことに感謝するべきだった。

 

「……では、お前の言葉で口説かれる日を楽しみにしていよう」


 そう返すのが、アリアの精一杯だった。


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― 新着の感想 ―
あ、夜だったら、エデルが押し倒されていたわけですね
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