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新婚旅行に行こう⑨~見せつけよう~

読んでいただいてありがとうございます。

 その日、領主の館はちょっとした混乱に陥った。

 砂漠の国の第三王子の滞在は予定通りだったが、予定外だったのが辺境伯とその夫の宿泊。

 新婚旅行の途中で、辺境伯の夫が慣れない馬車に酔い、体調を崩したので急遽泊まらせてほしいとの要望だった。

 砂漠の国の王子のことも全て承知の上で、世話をかけるのだからと、辺境伯自らが彼をもてなしてくれた。

 それだけのことだったのだ。

 領主は何も悪くない。

 彼は自分が出来ることをきちんとやっただけだ。

 でも、何故、男装の麗人が二人に増えているのだろう。

 そして、ブルーグレーの髪を持つ麗人(辺境伯の夫)を中心にその妻(辺境伯)と第三王子(間男予定)で三角関係……? ちょっと違うか、がそれに近い何かが形成されているのは何故だ?

 そりゃ辺境伯の夫はとってもウエディングドレスが似合う方ではあったけれど!

 何か妻とお揃いの軍服着ちゃって、何してんの? うちの人間、惑わすの止めて。

 おい、そこのうちの兵士。何ぼーっと見とれてるんだ。

 その人、男性だから。

 え? 男性でもイイ? 守ってあげたい?

 ……そうだな、死ぬ気で守れ。砂漠の国の間男から。

 そんな領主の心情なんて知ったことではないエデルは、笑顔でアリアにくっつき、気になったものがあるとすぐに隣のアリアに聞いていた。


「アリアさん、あの壺なんですが、ひょっとして古代の物ですか?」

「そうだな。古代の壺は大半が割れた状態で発見されると言われているが、これは欠けてもいないし、黒の艶が見事だな」

「アリアさんの髪みたいに綺麗ですね。夜の闇みたいで、最初アリアさんに会った時は夜を司る女神様かと思いました」


 神話によれば、夜を司る女神は、その笑み一つで配下を従わせているのだという。

 

「ふふ、私はエデルこそどこの女神かと思ったぞ?」

「えぇー、あの時の俺、けっこうひどい格好でしたよ?よろよろの旅姿のままだったし、埃で汚れてたし。今思うと、よくアリアさん俺たちに会ってくれましたね」

「ん?そうだな……勘、かな?絶対に会わなくてはいけないと思ったのだ。もしあの時、私が会わなかったら、お前は今頃、砂漠の国にでも行っていたかもしれないな。ひょっとしたら、イスハーク殿のもとで楽師として働いていたかもしれないな」

「暑いの苦手だけど、どこまでも広がる砂の大地にはちょっと惹かれます」

「ふふ、まぁどこかで必ず私とは会っただろうが、そうなるとお前を巡って争いが起きていたかもしれんな」

「いや、それは、困るかも」


 ……エデル様、アリア様の遠回しの告白に気付いてます?

 どこにいようとも絶対に巡り会って、私のものにするって宣言してますよ?

 ほら、イスハーク殿下なんて口元ひくひくさせてますよ。

 というか、これって牽制でいいのですか?

 単にイスハーク殿下に愛の深さを見せつけたいだけですか?

 アリアの言葉にちょっと困り顔で、でも決して嫌そうではなく、むしろ恥ずかしそうに答えるエデルの姿をイスハーク(こいがたき)に見せつけたかっただけなのかもしれない。

 ちょっかいをかけるな、という牽制だ。

 慣れている侍女と護衛たちはともかく、領主の館に仕える者たちがどうしていいのか分からない顔をしている。ついでに領主は遠い目をしていた。


「……大変、仲が良ろしいのですね?」


 ひくつきながらも、果敢にイスハークが声を出した。


「そうですか?アリアさん、俺たち、他の人たちから見たら、ちゃんと仲が良いって見えるみたいです」

「当たり前だろう?それとも、夫婦仲が悪い方がいいのか?」

「嫌ですよ、せっかくクロノスに両親の仲の良い姿を見せられているのに。それに、アリアさんに嫌われたくないです」

「ふふ、私たちの可愛い息子(・・・・・)も、両親が離ればなれになっていたり、仲違いした姿を見るのは嫌だろうな。むろん、私も息子(・・)に見せるのは嫌だ。父と母は、息子の良い手本とならなくてはな」

「アリアさん……そうですね!」


 エデルは、アリアの両親が冷え切った仲だったと聞いているので、幼い頃のアリアはそれが嫌だったのだろうと同情していた。クロノスに同じ思いをさせないようにしようとしている、単純にそう思っていた。

 ただその割に、息子という単語をちょっと強調しているような気がしたが、気のせいだと思うことにした。

 もしくは、エデルに息子の存在を忘れるなという忠告だと思っていた。

 実際は、イスハークに対する牽制だった。

 イスハークは、惚れた相手に息子までいると知って、さらに苦悩が深くなった。

 息子……息子……それもあの言い方だと、赤ん坊とかではなく、それなりの年齢の子供……。

 惚れた人が生んだ子供……。

 もしこの思考が外に漏れていたら、周囲の人間が彼の間違いを正してくれただろう。

 エデル様は男性だから、子供はさすがに産めません、と。

 だがイスハークは、冷静な顔をしてそんなことをぐるぐると考えて外には漏らさなかった。

 むしろ、思考はさらに加速し、イスハークの中で、エデルそっくりの息子が彼に抱きついている姿を想像して、それも有りか、というところに落ち着いた。

 実際のクロノスはアリアにそっくりなのだが、イスハークの中ではエデルの息子=エデルにそっくり、になっていた。

 エデルに似ているのなら、イスハークの血を引いていなくても可愛がる自信はある。

 などと勝手に妄想していたが、現実はイスハークにとって無情だった。


「元々クロノスはアリアさんに似てましたけど、最近はさらにアリアさんに似てきた気がします」

「あの子はロードナイトの血が濃く出ているからな」

「それもありますけど、何か俺に対する扱い方というか何というか……」

「あの子なりに、父を守ろうとしているのではないか?ほら、エデルは少し目を離すとろくでもないことに巻き込まれているからな」

「……うわぁ、ヤバイ、否定出来ない」


 色々と巻き込まれやすい体質であると最近ようやく自覚したばかりのエデルは、ひょっとして一緒に住んでいた間もけっこう息子に迷惑をかけていたのかもしれないと思って、ちょっと落ち込んだ。


「エデルはそのままでいい。クロノスも私も、ちょっと抜けているそういうところも愛しているよ」

「俺も!アリアさんとクロノスを愛してます!」


 エデルとアリアの息子はアリアによく似ていて、エデルは愛する妻と妻にそっくりな息子を愛している。

 イスハークは嫌々だがそれは十分に理解させられたのに、目の前でそうやって声に出されると余計心に響く。

 それをアリアはきっと分かってやっているのだ。

 エデルが揺るぎない心で妻と息子を愛していると知っているから。

 イスハークは、まさかこの二人が未だに清い仲だとはもちろん知らなかった。

 一方侍女たちは、アリアのピンポイントでの攻撃に、内心で喝采を浴びせていた。

 私たち辺境の民から、エデル様を盗もうなんて許せない。

 エデル様は、アリア様の隣にいるのが一番しっくりくる。

 アリア様だって、エデル様がいるのといないのとでは、全く違うんだから!

 今までは淡々と日々の政務を熟していたアリアが、結婚してからとても楽しそうにしているのを周囲の人間は皆知っている。それを壊そうなんて輩は、排除するに限る。

 ラファエロ様のように、エデル様の役に立っているのならともかく!

 あれ?ラファエロ様、役に立ってる?相談相手としては……微妙?

 特に何もしていない、強いて言うならエデルの望み通りちょっとした夜の手引き本を贈っただけなのに、なぜかイスハークと一緒にラファエロの評価も下がった。


「あぁ、失礼、イスハーク殿。あまり貴殿には関係ない我が家の話を聞かせてしまったな」


 わざとですよね?絶対!

 ふふふ、と微笑するアリアとそんなアリアを笑顔で見つめるエデルの姿に、イスハークは撃沈したのだった。

 

 



巻き込まれたラファエロ。

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