新婚旅行に行こう⑦~大変よくお似合いですよ~
読んでいただいてありがとうございます。シリアス先生は今回も行方不明。キーワードに男装の麗人を入れてみたのですが、どっちに当てはまるのかなー?
希望通り格好良い服に身を包んだエデルは、廊下に出ると、今回も護衛で付いてきたショーンに出会った。
「あ、ショーン隊長、おはようございます。どうですか、この姿。格好良くないですか?」
「おはようございます、エデル殿。大変良くお似合いですよ」
エデルを褒めつつ、ショーンはエデルの後ろにいた二人の侍女に目で話しかけた。
『やりやがったな、この侍女共め』
『エデル様が格好良い服を着たいとおっしゃったので、アリア様とお揃いの軍服をご用意しただけです』
『おい、どうがんばっても男装の麗人にしか見えないだろうが!なんでよりにもよってこんな服、着せたんだ。お前らの趣味だろう?絶対そうだろ!』
『ふ、お仕えする方にどの服が良く似合うのかを知りつくし、ご用意するのが私たちの大切な役目です。この服はアリア様とお揃い、なおかつ、エデル様にはたいっっへん良くお似合いではありませんか?その腐った目でしっかりご覧ください』
『腐ってんのは、お前らの方だろうが!いや、似合ってるよ、そりゃもうばっちりと。だが、この姿のエデル殿を見て誰が男性だと思うんだよ』
『え?その認識、必要ですか?』
『エデル殿的には絶対必要』
『アリア様的には別に必要ないと思いますよ。誰がエデル様の妻かということを、物理で分からせにいけばいいだけの話ですから』
『それは、エデル殿を女性と間違えた方に、だよな?え?それもあるけど、違う?あ、エデル殿にか。そうか……そっかぁ、って、なんでうちのお嬢が自分の旦那を襲う前提で考えてるんだよ、お前ら』
『エデル様にアリア様を襲えと?』
『……そうだな。下らんことを言って、悪かった』
目だけの会話は、ショーンの敗北で終了した。
その間も、エデルはにこにことショーンの方を見ていた。
その姿は、まるで褒められることを期待している子供のようだった。
「軍服姿のエデル殿など、生涯お目にかかる機会はないと思っていました」
「その方がいいですもんね。でもせっかく作ってもらったのに、お披露目もなしだとこの服に申し訳がない気持ちになっていたので、こうして着る機会が出来て純粋に嬉しいです」
「そうですね。エデル殿がその服を着て我らの先頭に立つ日が来たら、その時はすでに国の大半は滅んでいるでしょう。我らは、エデル殿にその服を着させないことが一番の仕事です」
「そうそう。軍服着たって、俺が出来るのは演奏くらいだから」
あ、それいいかも。禁欲的な軍服着たエデル様が情緒たっぷりの曲を歌えば、アリア様も喜ばれるのでは?
先ほどショーンとの目だけの会話に勝利したエッタとベルは、近いうちにエデルにお薦めしようと決めた。
ついでに、ちょっとだけその姿を侍女や女性騎士たちに見せてくれれば、こちらのやる気と忠誠心がアップすること間違いなしだ。
何事も先頭に立って自分たちを導いてくれる女帝もいいが、自分たちが儚い男性を守るというシチュエーションに萌える女性も多い。
我らが辺境伯家は、その両方を満たしてくれる貴重な夫婦がいてくれるので、大変目と心の栄養になってくれている。
後ろで二人がそんなことを考えていたのが伝わったのか、エデルが軽く身震いした。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いや、その……何かちょっと悪寒が……気のせいかな?」
「……お気になさらない方がいいと思いますよ」
その悪寒の元は、侍女たちですから。
そんなことを直接エデルに伝えられなかったショーンは、心の中でそっとエデルに伝えた。
あいにくとエデル自身の受信能力が低かったようで、侍女たちの真の姿をショーンは伝えられなかった。
そして、諦めとともに、この人、もう生贄でよくない?、という心境に至った。
エデルとアリアを着飾らせて見世物にすれば、領内の女性陣は喜びに満ちあふれるだろう。
そして、男性陣には絶望が訪れるだけだ。
その試練をクリアしてこそ、真の辺境の男だ。辺境に住む女性陣の目は肥えているぞ。
ショーンは、本気で辺境の結婚率を心配した。
「ショーン様、目の保養でございます。他意はございません」
「……おぅ。憧れだけに留めといてくれ」
「憧れは、己の目で見たいものでございます」
そうだよな。見ないと始まらないもんな。でも、この二人見た後に辺境軍のむさ苦しい男どもを見ても大丈夫か?引かない?
「ふふ、見くびらないでくださいませ。我ら女性陣は、現実というものをきちんと見ておりますよ。ちょっとした心の安らぎがほしいだけです」
「出来れば優しくしてやってくれ」
むさ苦しいが心優しい男共なのだ。根性曲がったやつはこっちで鉄拳制裁……ではなくて、男同士の話し合いをするから。ちゃんと真人間に戻してから出荷するから。
そんなことを思っていたら、反対側からアリアがやってきた。
「アリアさん!」
嬉しそうに妻に寄って行く男装の夫にアリアは驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「おはようございます。どうですか?この格好」
「おはよう、エデル。今日はいつも以上に素晴らしいな。どうした、その姿は?私に憧れでもしたのか?」
「俺はいつだってアリアさんに憧れてますよ。だって、格好良いですから。じゃなくて、この姿なら誰もが俺のことをきちんと男性だと認識するでしょう?イスハーク殿下だって、分かってくれますよね?」
嬉しそうにそう報告する夫にアリアは、少し考えるそぶりを見せた。
「まぁ最悪の場合は、私があの男と話し合えばいいが……そうだな、エデル、今日は一日、私にくっついていればいい。どこに行っても一緒にいれば、イスハーク殿も諦めがつくだろう」
「いいんですか?じゃあ、今日はアリアさんと一緒にいますね」
「ふふ、普段だって危険な場所でなければ一緒にいてもいいんだぞ?」
「それは、俺がアリアさんの仕事の邪魔になるからだめです。でも時々、アリアさんが仕事をしている姿を遠くから見てますよ。その度に顔がにやにやしてるらしくて、いつも近くにいる誰かがわざとらしく咳き込んでくるんですよねー」
恋する乙女か、あんたは。
ショーン(実は独身)が、チラッとエッタとベラの方を見ると、うっすらと笑みを浮かべた二人が領主夫妻を優しい目で見守っていた。
……いや、辺境伯夫妻の仲が良いことは大変いいことだと思うが、そうか、この笑顔で二人を見守る女性をさらに見守る度量が必要になるのか、俺たちは。
辺境伯夫妻に文句を言う男など、きっと見向きもされないに違いない。
むしろ辺境伯夫妻に失恋した男の方が、あの方に恋するなんて見所がある、とか言って女性陣に受けそうな気がする。
……がんばれよ、若者たちよ。
自身はとっくの昔に結婚することを諦めた男は、ただただ後輩たちにエールを送ったのだった。
感想で、シリアス先生は隣に出張中では?、といただきましたが、確かにその通りです。たまにはこっちに帰ってきてほしい……。
あ、シリアス先生がこちらをチラ見している。
シリアス先生 「ねぇ、新しいシリアス考えたんだけど?」
作者 「本当ですか??シリアス先生」
シリアス先生 「あっちで」
当分、こっちには戻って来ないかもしれません。




