結婚式前㉚~帰ってきた父~
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行方不明になっていた父に、自分がどれだけ心配していたのかという話をしたところ、少々自分自身を蔑ろにする傾向にある父は、「ごめん。そこまで考えなかった」と素直に謝ってくれた。
怪我もなく無事に帰ってきたからいいけれど、父は一人での外出は禁止になった。
「しばらく?ってどれくらいだと思う?クロノス」
しばらく一人での外出禁止って言われたけど、何か期間が決められてない気がする、そんなことを言い出したエデルにクロノスは、ここは母の肩を持つべきだと判断をした。
「お父さん、今回のことはまだ全部解決してないんでしょう?お母様はお父さんを心配しているんです。お母様の許可が出るまでは一人での外出は止めた方がいいですよ」
「うーん、確かに。ちょっと王都の貴族が絡んでるとか言ってたしなぁ」
「せめて解決してからじゃないと無理だと思います。でもその後だって、いつお父さんが狙われるか分からないので、僕としてはお父さんは、いつもお母様と一緒にいてほしいです」
心配してるんですよ、という感じの顔でクロノスがそう言うと、エデルは、そうだよね、と納得をしていた。
……お父さん、ちょっとチョロいです。
息子としては心配になったが、母が一緒にいれば大丈夫だろう。
「クロノスに心配かけてちゃ、父親としてダメだよね。アリアさんの許可が出るまでは一人で外に出ないよ」
「そうしてください」
父親としてエデルは精一杯愛情を注いでくれているが、恐らく、元々は守られる側の人間なのだ。
二人で旅をしている時、精一杯気を張ってクロノスを守ってくれていたが、今こうして、安全な場所を確保出来たことにより、エデルの本来の性格が表に出てきた。
一人で旅をしていた時、よく色々な旅の一座に入れてもらっていたと言っていたのは、何となくほっとけない感じを醸し出していたからじゃないだろうか。
「お父さん、無事に帰ってきて良かったです。……お帰りなさい」
「うん。ただいま」
エデルは、ちょっと照れているクロノスを思いっきり抱きしめた。
「……エデルだけ、ずるいな」
いつの間にか現れたアリアが、クロノスを抱きしめたエデルごとまとめて抱きしめた。
「二人とも、親子の触れ合いには母も交ぜるべきだ。そもそも、どちらかというと、幼い子供は父より母との触れ合いの方が多いと聞くぞ」
まぁ、確かに幼い内は母親との触れ合いの方が多いだろう。多くの子供は、母に抱きしめられると安心するものだ。
アリア様、それはクロノス様にとって実質どちらが母親っぽいか、という問題なのでは?
見守る家人の素直な意見はそれだ。性別云々という問題じゃない。
「アリアさんは、こうやって俺ごとクロノスを抱きしめてください」
解決策(?)を提案したエデルに、アリアも笑って応じた。
「そうだな。それがいいな。私がこうしてお前たち二人をまとめて抱きしめていれば、それで解決する。ところで、エデル、時間だぞ?」
「はい?何のですか?」
「忘れているな。お前のドレスの最終打ち合わせだ」
「ああ!」
結婚式まで元々あまり時間がなかったのに、エデルが行方不明になっていたのでさらに時間が足りなくなっていた。
アリアの服は大丈夫だが、エデルのウェディングドレスは何度か仮縫いをして調整しており、戻ってきた今、最終調整をしている最中だった。
「もうすぐ時間だからな、呼びにきたのだ」
「すみません、アリアさん。クロノス、俺、行くね」
「はい」
バタバタ、とエデルが走って行き、クロノスとアリアがその場に残された。
「お母様は一緒に行かないのですか?」
「式の当日まで、ウェディングドレスを着た花嫁を見るなと言われたのだ。デザインなどは、エデル付きの侍女たちに任せてある。確認したら自信あり気に、当日のお楽しみです、と言っていたよ」
「……花嫁……」
「花嫁、だ」
「どうしよう、間違ってない気がします」
「我が家では、それが正解だからな」
「お父さんは、お母様の夫で花嫁さん、何かややこやしいですね」
でもそうなのだから仕方がない。
「嫌か?」
「いいえ。僕にとってはそれが一番正しいです」
うん。やっぱり間違ってない。
ちょっとだけ考えたけれど、クロノスの出した結論は、よそはよそ、うちはうち、そして我が家はこう!だった。




