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結婚式前②~宝石鉱山~

読んでいただいてありがとうございます。リアルがちょっとだけ忙しいです。宝石鉱山や宝石については、こういうものなんだとゆるーく思って下さい。異世界なので…。

 ハルテ鉱山に近づくと、アリアは軍をいくつかの部隊に分けて展開させた。山賊共は10人~20人くらいで徒党を組んでいるらしいのだが、見つけさえすれば辺境の軍人たちの相手ではない。


「遠慮はいらん。好きなだけ暴れてこい。盗賊達の生死は問わんが確実に潰せ」

「「「はッ!!」」」


 綺麗さっぱり片付けておかないとああいう輩は1人でも逃がしたらまたわらわらと湧いて出てくる。一度堕ちた者たちはなかなか元には戻れない。戻れない以上、こちらではない世界に送ってやるのも慈悲の1つだとアリアは思っていた。送ることで本人たちもこれ以上罪を重ねないし、被害者も出ない。治安も維持されて民が安心して暮らせる世の中になって、と非常に良いことずくめだ。まして今回の盗賊たちは、計画をしっかり立てているようで警備の隙間をぬうように犯行を繰り返している。生死を問わないのは生け捕りにこだわって兵士たちがいらない傷を負うのを防ぐ為だ。

 臨時の総司令部と化した天幕の中でアリアは地図を眺めていた。


「西の街道に念のために見張りを。あちらの国が盗賊共と関係ないのならばそれでいい。ただの盗賊団として処理をしろ。もし関与してくるのならば証拠を押さえておいてくれ」


 どうもこの盗賊の裏には西側にある隣国が関与しているようだった。盗賊の言葉に西国の訛りがあったという報告もきている。今はそこそこの友好関係を築けてはいるが、元々幾度となく争ってきた国だ。あちらは世界有数の宝石鉱山であるハルテ鉱山が欲しくて仕方ないらしく、過去に何度も戦争を仕掛けてきていた。


「心配いりません、お嬢。すぐに見つけ出しますよ。あまり遅いようなら帰ったら鍛え直しますので」


 がんばれ部下たち。早く見つけないと帰ってから死ねるぞ。

 軍団長の鍛え直し発言に残っていた幹部たちが心の中で応援を始めた。

 自分たちも通ってきた道だからこそ鍛え直される訓練のつらさは知っている。一度受ければ二度とやりたくなくて必死にお仕事をがんばろうという気になれる。

 むしろ鍛え直された方が軍としては良いのかもしれない。


「そうか。私は行かなくても大丈夫か?」

「ええ、お嬢は旦那さんと坊ちゃん用のお土産でも選んでいて下さい」

「分かった。では、頼むぞ」

「お任せ下さい」


 自信満々な軍団長に後を任せてアリアは、本来の目的である鉱山の方へと移動した。

 このハルテ鉱山は宝石鉱山として数多の宝石を産出している場所だ。この鉱山の特徴は出てくる宝石の種類が多いこと。一種類だけではなく、数多くの種類の宝石が日々採掘されている。それに質も良く、大きな石も出やすいことから辺境伯家の宝石箱とも呼ばれている。


「最近の状況はどうだ?」

「問題ありません。量も質も落としていません」


 採掘場の近くにある宝石の保管などをしている館に行くと鉱山の責任者から話を聞いて報告書を読んだ。採掘量も品質も落ちていないし、盗賊が出ること以外は問題なさそうだ。


「アリア様、ご結婚されたとのこと。おめでとうございます」

「ふふ、ありがとう」


 急な結婚だったのにも関わらず、すでに情報は辺境中に回っている。鉱山の責任者も最初は誤報だと思ったのだが、続報が入ってくるにつれて本当のことなのだと納得した。それに加えて領都にいる知り合いからアリアの結婚相手の情報が入ってきたので、旦那様となった人物が実在しているのだと実感が持てた。


「驚きました。ご養子も取られたと聞きましたが」

「ああ。アレの息子だが従弟の子でもあるからな。一族特有の青紫色の瞳も持っているから間違いないだろう」

「左様でございましたか」

「クロノスは可愛い子だぞ。とてもアレの子とは思えないほど素直な子だ。顔立ちも従弟に似ているから、アレの要素ははっきり言って見当たらん。おかげで城内の者たちにも受け入れられている」


 アレの子供、というハンデを背負っていたクロノスだったが、辺境伯の一族の血が色濃く出た外見と苦労してきたのにあまりすれていない様子に城内の者たちも母親はともかく本人は良い子、という感じになり受け入れてくれた。そしてアリアが定めた次代なのだという気持ちで接してくれている。


「ご伴侶様はどのような方なのですか?」

「エデルは私が持っていないものをたくさん持っている。時折、本当に同じ人間か?と思ってしまうな」


 楽器を奏でる才能。高音から低音まで音を外すことなく綺麗に歌い上げる才能。曲を作る才能。

 何度か聴かせてくれたが、どれもアリアが持ち得ない才能。政治や軍といった現実の中で生きているアリアにはそういった芸術面の才能ははっきりいってない。


「出会ってすぐに結婚を決断したが、我ながら最良の決断だったと思っている」


 エデルと出会い、お互いの何かを知るより早く結婚した。自称妹が恐らく子供の面倒見要員と借金要員として選んだであろう夫は、控えめな性格、というか感覚で生きているような男性で、時折ものすごく素直に飾らない言葉で本質を突いた発言をしてくる。


「この2ヶ月一緒に暮らしているが、エデルの何の小細工もない真っ直ぐな言葉に翻弄されっぱなしだ。いかに歪曲にどうとでもとれるような曖昧な言葉でしゃべる連中にしてみたら、はいかいいえの2択で聞いてくるエデルの言葉は怖いだろうな」


 くすくすと楽しそうに笑うアリアに鉱山の責任者は満足そうに微笑んだ。

 鉱山の責任者はアリアの祖父の代から仕えてくれている人物で信頼も厚い。アリアの問題だらけの父と愛人とその娘が宝石鉱山を好き勝手にしようと計画した時もあらゆる手段を使って鉱山を守ってくれた。それゆえにアリアの代になってもこの重要な鉱山を任せているのだ。

 祖父に連れられて幼い頃から出入りしているアリアは彼にしてみれば孫娘みたいな存在で、苦労を知っている分、こうして今まであまり見たことがない笑顔を引き出してくれたアリアの旦那様に感謝したいくらいだ。


「エデルとクロノスに宝石を見繕ってくれないか?」

「どのような石がよろしゅうございますか?」

「ふむ……エデルは今度の結婚式でウェディングドレスを着るのだが」

「少々お待ち下さい、アリア様。旦那様がウェディングドレスをお召しになるのですか?」


 聞き間違いか、と思ったのだがアリアは「そうだ」とこともなげに言ってきた。確かにアリアは普段から軍服姿だしドレス姿を一度も見たことはないが、そうか、結婚式までそうきたか、と妙な納得をした。アリアが反対しないということは旦那様はきっとウェディングドレスが似合う顔立ちの方なのだろう。これで実際に会った時に全然ウェディングドレスが似合わない方だったらきっと申し訳なく思う。


「安心しろ。女の私が言うのも何だがエデルは十分似合うと思うぞ。ウェディングドレスは私の白の軍服と対になるように作るように言ってある。その時に使う宝石と、それから普段使い用の物も欲しいな」


 良かった、旦那様はウェディングドレスが似合う方らしい。となると宝石も男性用の服の飾りに付けるような小ぶりの石ではなくて、辺境伯家の花嫁が身につけるような宝石で良いだろう。男性なので多少肩幅もあるだろうから、ネックレス用は少し大ぶりな宝石でも良いのかもしれない。


「定番ですとダイヤモンドやサファイアといった物がよろしいかと。それと普段使い用でございますか」

「ああ。エデルにはすでに血縁者がいないらしくてな。私がお婆様から貰った白の軍服を着たいといった時に羨ましそうにしていたのでな。家族となった私からの初めての贈り物にしたい」


 家族からの思いの詰まった贈り物。それはエデルには無縁の物だった。アリアには、父はともかく、可愛がってくれた祖父母や親族といった人たちがいたし、ご先祖様たちが残してくれた物もたくさんある。だがエデルは物心ついた時には放浪の旅をしていて、母も早くに亡くなったので家族の思い出の品というものがないと言っていた。だからこれからはそういった物をアリアが用意すると決めた。


「なるほど。ではアリア様、ジュエル=ジュエルに挑戦なさいますか?」

「ほう、ジュエル=ジュエルか。また珍しい物が出たな」

「はい。つい先日採れた物ですが、中には複数の宝石が眠っているというのがうちの鑑定士たちの見立てです」


 ジュエル=ジュエルは時折見つかる水晶や紫水晶などの中に何らかの理由で宝石が閉じ込められた宝石のことだ。滅多に見つからないことから幻の宝石とも幸運の宝石とも呼ばれていて、ジュエル=ジュエル自体が高値で取引される。水晶や紫水晶といっても透明になっておらず、濁った物の中にシルエットだけ見える何かしらの宝石が眠っているので、そのまま売りに出すのか割って中の宝石を取り出すのかはギャンブルだとも言われている。過去にはダイヤモンドが入っている物もあったし、宝石としての価値がない石が入っていた物もあった。


「いかがですか、アリア様。挑戦なさいますか?」

「そうだな。面白そうだ」


 せっかくの機会だ。夫と息子に贈る宝石をこの手で取り出すのも良いだろう。アリアの視察に合わせてジュエル=ジュエルが見つかったのも何かの縁だ。


「ではこちらへどうぞ」


 アリアが案内された部屋は職人たちが宝石の研磨などをして形を整えている場所だった。そこの机の一角に白く濁った水晶柱が置いてあった。直径30㎝、高さは40㎝くらいある水晶柱の中にうっすらとだが影が見える。あれが宝石なのだろう。


「立派な物だな」

「はい。このまま売りに出せば高値が付くと思われます。アリア様、どうぞ」


 鉱山の責任者が宝石を割るための道具をアリアに渡した。職人が慎重に水晶柱を触って感触を確かめる。


「アリア様、ここです。ここをやって下さい」

「分かった」


 職人が示した一点にアリアはノミをあてがうと金槌を振り下ろした。パリンという音がして水晶柱にひびが入り見事に粉々に砕けた。そしてその中から複数の宝石が転がり落ちてきた。


「こいつは当たりでしたね」


 中から出てきたのは種類の違う大小様々な宝石。透明度もその色合いも美しいものばかりだ。


「ほう、これは珍しい。バイオレットサファイアですな」


 青色の宝石が多い中、紫色のサファイアが紛れ込んでいた。小さめのバイオレットサファイアが2粒。


「綺麗な色合いだな。これでピアスを作れるか?普段から着けられるような物だ」


 アリアもエデルもピアスを着けている。エデルは男性にしては珍しくピアスを着けていたので理由を聞いたら、劇で女役をする時、激しい動きをするとイヤリングだと落ちてしまうのでめんどくさいからピアスにしたのだと言っていた。開けた穴が塞がらないように普段から着けているだけで特に思い入れはなさそうだったが、これから先はこのピアスを着ける為だと言わせよう。

 それにこのバイオレットサファイアはどこかアリアの瞳の色に似ている。アリアの瞳はもう少し青みがあるがこのバイオレットサファイアは十分にアリアの色合いだと言ってもいいだろう。


「私にはこちらの宝石でピアスを作ってくれ。これも普段用だ」


 アリア用のピアスはブルートパーズ。エデルの瞳の色だ。


「ではこちらの大小のサファイアで結婚式用のネックレスとピアスをご用意いたしますか?」

「そうだな。それから、このサファイアでクロノス用のペンダントを作ってくれ。ブローチにもなるようにしておいてほしい」


 クロノス用のサファイアは結婚式用のサファイアよりは小ぶりだがそれでも十分、辺境伯家の子息が持つのに相応しい代物だ。さすがにクロノスはピアスを開けていないのでペンダントにして普段から身につけていれば良い。母が息子に贈った物というのが重要なのだ。


「かしこまりました。麓の職人に大至急作らせます」

「頼んだぞ」


 麓の町には宝石のデザイナーや職人たちが大勢いる。彼らは女帝とその家族の為ならば、寝る間も惜しんで仕上げてくれるだろう。


「しかし、お互いの瞳の色のピアス、か……少々私の思考回路が乙女化しているのか?」

「良いではありませんか。ひょっとしたらアリア様たちのおかげで互いの瞳の色の宝石を贈り合うことが流行るかもしれませんよ」


 鉱山の責任者の言った通り、この後、辺境ではお互いの瞳の色の宝石を贈り合うことが流行り、そしていつの間にか定着するようになるのだった。

 


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