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結婚式前㉒~どっちだ??~

読んでいただいてありがとうございます。エデルは、ふわふわ飛んでいる蝶か、美しい声の小鳥か、どっちがいいんでしょう??

「その手を離してもらおうか」


 エデルの肩をがっしり掴んでいたラファエロは、その言葉と同時に己の首筋に刃が煌めいているのを確認した。剣を持っているのは、当り前だが笑顔の怖い女帝だ。

 いつの間にか現れた辺境伯は、その口元に微笑を浮かべてはいるが、美しい青紫の瞳が全然笑っていない。

 返答しだいでは、このまま剣が首に突き刺さる。一瞬で逝けたらまだマシな方じゃないだろうか。


「アリアさん、どうしてラファエロに剣を?ひょっとして、ラファエロに何かされたの!?」


 だとしたら、いくら友人でも許せないんだけど。

 焦ったように見当違いのことを言うエデルに、アリアは安心させるような笑顔を見せた。

 何だよ、自分の夫にはそんな顔、出来るんだな。まぁ、相手はエデルだし。その気持ちは分からなくもない。というか、友人の心配はしてくれないのか?何で私がこの女帝相手に何かやらかしたと思えるんだ?お前の目は節穴か?やられるなら私の方だろうが。

 どうもこの友人の目には、変な膜が張ってあるんじゃないかと思えてきた。


「何かされそうになっているのはエデルの方だ。ファーバティ伯爵、私の夫に手を出した代償は、高くつくぞ」

「手は出していない。というか辺境伯、貴女だって手を出していないだろう?」


 ふふん、と鼻で笑ってやったのだが、アリアは表情を一切崩さなかった。


「ふふ、エデルに聞いたのか?何と言われようが、私たちは夫婦だからな。伴侶の意志を尊重するのは、当然のことだ。それに結婚式を挙げてからでも遅くはない。その間に、お互いのことをよく知ることが出来る。夫婦である以上、お互いのことを理解するのは大切なことだと思うぞ」


 えっとアリアさん、それって結婚式の後は、ってことでしょうか?じゃあ、今回の件で、俺は覚悟を決めなくていいですか?変な扉は、閉じたままにしておいてくれますか?

 エデルの心の声は、わりと必死だった。特に最後。開けてはいけない扉については、一番切実な問題だった。そこが開くか開かないかで、ラファエロに用意してもらう本の種類が変わる。

 夜の衣装に関しては、何も言わなくてもお城の侍女たちが厳選してくれるので、心配はしていない。

 万が一、透け透けの衣装でも、アリアが喜んでくれるのならば、着こなしてみせよう。

 でも、アリアさん、俺、アリアさんのことを深く知る前に問答無用で夫にされたんですけど、そこに俺の意志はあったんでしょうか……。


「どうせ契約結婚だろう?エデルのことを、そんなに知る必要はないと思うが?」

「愚かだな。その関係にどんな名がつこうが、相手のことを知るのは必要なことだ。それとも貴殿は、友人のことさえ何も知らないのか?」

「……チッ」


 ラファエロは、アリアの言葉に舌打ちした。

 どうせ、エデルが結婚したことも知らされてなかったよ。それに結婚したってことは、エデルとずっと同じ場所で暮らしてるということだろう?このすぐにふらふらとどこかに行ってしまう友と一緒に暮らしてるとか、ちょっと羨ましい。毎日、あいつの音が聴ける特典付きなのも腹が立つ。


「あれ?そう言われると、俺、ラファエロのこと、そんなに知らない気がする。エスカラの伯爵で、エロエロ魔神ってことくらい?」

「やめろ!その変なあだ名。お前にとっては色々な女性と食事に行くだけで、エロエロ魔神なのか?そんなにあっちこっちの女性に手は出してない!」

「ふふ……あははははは」


 エデルのラファエロに対するエロエロ魔神という評価に、アリアは剣を持つ手が震え、笑い出してしまった。うっかり刺してしまいそうになったので、剣をラファエロの首筋から外して鞘に納めた。

 笑いを堪えきれなかった辺境伯と、何とも言えない情けない顔をしているファーバティ伯爵、そして何がアリアの笑いのツボにはまったのか分からずにきょとんとしているエデル、という様子にエクルト子爵はちょっとだけラファエロに同情した。


「エロエロ魔神……でも、あの伯爵にぴったりな感じがするのは、何故でしょう……」


 ジェシカの言葉にエクルト子爵も吹き出しそうになった。

 貴族のことなどほとんど何も知らないジェシカから見ても、ラファエロは恋多きエロエロ魔神感が出ているようだ。

 そのエロエロ魔神は、王都でも有能な方なんだけどねぇ。

 チラリと後ろを見ると、辺境軍とラファエロの手の者たちが頑張って耐えている。ちょっと色んな部分がぷるぷるしているのは、見なかったことにしよう。 


「エデル、ファーバティ伯爵と友人関係なのはかまわないが、そこは変な影響を受けてくれるなよ。どうしても必要ならば、私が教えよう。女性のエスコートの仕方から会話まで、一通りはこなせる。そうだな、今度、どこかに出かけて練習をしよう。あぁ、しまったな。ウェディングドレスだけではなくて、他にも何着かお前用のドレスを用意しておけばよかった。とりあえず、城にあるドレスで何とかするか」

「アリアさんが教えてくれるんですか?ありがとうございます」

「考え直せ、エデル。今の会話はどう聞いても、お前が女性役だぞ」

「実地で体験するのが一番分かりやすい。それに、私たちの場合は、そっちの方がしっくりくる」


 それはたしかに、そう。

 というのがその場にいた者たちの一致した思いだった。

 男装のエデルと女装のアリア?より、男装のアリアと女装のエデルの方がしっくりくる。違和感もきっとない。むしろ目の保養。

 何だかんだ言いながら、ラファエロもその部分は納得出来た。


「あ、でも、その、さすがに閨のことは……、ラファエロ、本は貸してね」

「はぁ、分かったよ。そんなに見たいのなら用意はしてやるが、どっち向けだ?」


 お前が読むのは、男性向けか?それとも女性向けか?そこだけは、しっかり夫婦で話し合いをしてくれ。お前の男(?)のプライドは知らん。お前が受けなら、それなりの本を用意してやる。


「ファーバティ伯爵、私の夫に変な物を渡すなよ。エデル、本など読まなくても、私たちは私たちのペースでやっていこう。一緒に、な」

「アリアさん……!」


 エデルにだけ見せる微笑みでアリアがそう言ったので、エデルは嬉しそうに顔を輝かせた。


「……バカップル??」


 ジェシカが呟いた言葉は、誰もが思った言葉だったが、同調すると何か後が怖い気がしたので、誰も頷けなかった。

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