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結婚式前⑱~牢内のお姫様たち~

読んでいただいてありがとうございます。誤字脱字、大変助かります。ありがとうございます。

 予期せぬ方向からきた衝撃から立ち直ったエクルト子爵は、改めてエデルと向き合った。


「よし、じゃあ一応、確認させてくれ。君は、ロードナイト辺境伯の夫でファーバティ伯爵の友人、という極めて面倒くさ……稀な人物ということで間違いないんだね?」


 エクルト子爵はうっかり出た本音っぽい言葉を言い直してくれたけれど、自分でいうのも何だが、面倒くさい人物だという自覚は一応、ある。すごいのは妻と友人なので、自分ではないのだけれど。

 ラファエロとは本当に気の合う友人なのだが、他者から言わせれば、あの変わり者の友人!?、となるらしい。何でも色々と彼なりの基準があって、余人にはそれが分かりづらいらしい。エデル的には、変わり者だが優秀という友人のおかげで、彼の名前を出すとへたな貴族は寄ってこないので大変助かっていた。

 アリアは、女帝なので。もうそれだけで誰もが納得してくれる。


「まぁ、そうですね」

「私は、辺境伯がご結婚なされたことを知らなかった。君はそのことをファーバティ伯爵に伝えたのかい?」

「ラファエロに?言ってないですよ。直に会った時に、伝えようと思ってたので。今回、伝えるつもりではいたけど、まだ会えてないからなぁ」


 正直、いつ離婚されるのかも分からないので、伝えるべきかどうか迷ったくらいだ。だが、結婚式をやることになったので、人伝になるくらいなら自分から言おうと思ったのだ。

 エデルの言葉にエクルト子爵はふむふむと頷いた。


「お二人は屋敷の方で会っていそうだな。……何故だろう、あの二人が上手くいくイメージがわかない」

「あー、そうですねぇ。たしかに」


 アリアとラファエロ、二人を知っているエクルト子爵とエデルには、あの二人がにこやかに談笑するというイメージが出てこなかった。出てくるのは、お互いが何か企んでいる笑顔だ。


「あからさまに敵対しているわけではないが、辺境と中央だからねぇ」

「元々二つの国だから、いがみ合ってるってやつですね」


 エデルでも知っているくらい有名な話だ。ロードナイト王国とトワイライト王国、元々あった国を統合して出来た帝国なので、先祖代々のいがみ合いが残っている。今は単純にロードナイト側が辺境、エスカラにいるトワイライト側が中央と言われる陣営になっていて、表面上はともかく、表面下では陣地取りのようなことが未だに行われていたりする。陣地取り、と言っても実際に戦争をするのではなくて、その地を治める貴族を支配下に出来るかどうか、という類いのものだ。


「我が家は、中央側だったんだけどねぇ。場合によっては、辺境側に鞍替えかな」


 ホロー男爵は中央側の貴族だ。なのに同じ中央側のエクルト子爵を誘拐して、廃嫡した息子を出してきた。そんなことを彼一人の権力で出来るわけもないので、背後にはよほどの権力者がいるとみていいだろう。そして知らなかったとはいえ、辺境側のトップである女帝の夫も一緒に誘拐しているのだ。おかげで女帝自ら出張ってきているので、裏にいるのは辺境側の人間ではない。ホロー男爵の背後の権力者は、どう考えても中央側の人間だ。


「あ、うちに来ます?アリアさんなら喜んで受け入れてくれると思いますよ」


 せっかく知り合ったのに、辺境伯の夫が中央側の子爵家に気軽に遊びに行くわけにもいかないので、子爵が辺境側に来てくれるのなら大歓迎だ。


「今回は俺がこそっと来てるからいいですけど、さすがに身バレしたら簡単には遊びにいけないですから」

「身バレした以上、次回来る時はそれなりの護衛と一緒に来てくれると嬉しいね。そうなると、あの屋敷も建て直すか」


 すでに自分の妻と辺境伯の間で取引が成立したことを知らない子爵が、あの秘密の通路だらけの屋敷をちょうどいいから新しく建て直そうと計画を練り始めた。


「中央の権力争いに嫌気が差してこっちに逃れて来た身なのだが、どうも中央の者たちは、自分たち以外の貴族は下僕と考えているようでね。何をしても許されるとか思ってるんだよねぇ。ふふ、そんなわけはないのにね、そう思うだろう?エデル君」


 エクルト子爵の目が笑っていない。

 どうして、どうして自分の周りにはこういう風に笑顔が怖い人が多いのだろう。というか、中央の人たちって、怒らせてはいけない系の人を怒らす天才集団なんじゃないかと思えてきた。

 結果、天災より先に人災が彼らを襲いそうだ。


「えー、我々は全員、イールシャハル帝国の民であります。偉大なる初代皇帝陛下のお言葉として、皆、一緒、というのがあるので、中央の貴族が他の貴族を下に見る理由はないか、と思います」


 二つの国を統一した初代皇帝は、「二つの民は一つになり、皆、全て帝国の民である。帝都にいようが辺境にいようが、己の役割を果たすべし」と言った。中央の貴族が偉い!とは言ってない。むしろ、どこにいても自分の役割を果たせと言っているだけだ。中央には中央の、辺境には辺境の役割というものがある。その違いでしかない。


「俺、その辺は詳しくないんですけど、実際、エスカラの貴族たちって何やってんですか?」

「権力争いの真っ最中だよ。第一王子と側妃、第二王子と王妃、そこに各貴族が乗っかってる感じかな。ただ、個人的な感想を言わせてもらえば、皇帝の器は第一王子の方かな。傀儡にしたいなら第二王子の方だね」


 エクルト子爵に傀儡に出来ると言われた第二王子の方に、興味がわいてしまった。そこまで断言されるほどの王子ってどんなんよ。


「エデル君、もしエスカラに行く機会があったら、第二王子側の貴族には気を付けたまえ。君が辺境伯の夫だと知られたら、やつらはどんな手を使ってでも君を手に入れようとするだろうからね。君をだしにして辺境伯に無理難題を言うだろう」

「どうでしょう?アリアさんにそんな脅しは通じないと思いますよ。俺はあくまで……あれ?何になるんだ?契約婚?うーん、結婚するのに都合のよかった相手?なので」


 夫婦といっても、まぁ、そんな感じなので、アリアを脅す手札としてはちょっと俺は弱いんじゃないかな?とエデルは考えていた。


「噂に聞く女帝が、そんな理由で結婚するとは思えないんだけどねぇ。ま、夫婦の仲はその人たちにしか分からないからね。どちらにしても、エスカラに行く機会があったら気を付けた方がいいよ」

「分かりました。そこはマジで気を付けます」


 せっかくこうして教えてくれたのだ。第二王子側は要注意、というのは覚えておこう。


「あ、あの」

「うん?」

「私の前で、そんな機密事項っぽいことを話して大丈夫ですか?」


 存在感の薄いジェシカが、おそるおそるそう言った。こちとらただのひよっこ音楽家だ。政治とか貴族のアレコレは、自分のいないところでやってほしい。


「……いいかい、ジェシカ。一度こうやって巻き込まれた以上、これからも有り得ることなのだよ。特に音楽家なんてパトロン次第でどちらの陣営になるか決まってくるからね。こういう貴族間のアレコレも勉強した方がいいよ。でないと、いざ曲を弾いた時にうっかり選曲ミスで怒らせることもあるからね」


 故郷を思う曲とかならともかく、相手側、例えば皇帝に向かって辺境伯を称える曲とか弾いた日には、怒られるで済めばいい方だ。そこら辺は長年、色々な場所で弾いてきたエデルはよく分かっていた。隣国とちょっともめている国で相手国の曲を弾いて、牢屋に一晩お泊まりした同業者もいた。


「イヤー。うう、貴族のアレコレ、怖い」

「だよね。綺麗な曲だから弾きたいと思っても、内容がその場にそぐわないと、人によっては即牢屋行きだからなぁ。中には笑って見逃してくれる人もいるけど、その辺で貴族としての器の広さとか分かるよね」


 ちなみにアリアは全く気にしないし、ラファエロは、芸術とは人も国も越える、と宣言している人なので、どんな曲であれラファエロが気に入れば素直に褒め称えてくれる。


「ふむ、では、我らが出来ることと言えばちょっとした時間稼ぎくらいかな」

「時間稼ぎですか?」

「どう頑張っても武闘派ではない三人だから、ホロー男爵と談笑するという手しか浮かばないが、幸いあちらは我々を傷つけるつもりもなさそうだしね」

「売り物ですからね。今のところ、肉体の無事は保証されてるってところですかね」

「やりすぎると多少は覚悟しないといけないが、出来る限りは頑張ってみようか」

「アリアさんとラファエロが助けに来てくれるまで、何とかなるといいんですけど」

「牢に囚われた我々は、王子様の助けを待つのみ、だ」


 お姫様三人(美中年子爵、へらっとしてる辺境伯の夫、男装の演奏家)は、王子様たち(辺境の女帝、エスカラの変人)がここにたどり着くまでの時間稼ぎをするということで一致した。

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