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謎のドラッグストア

作者: 池田大陸

初投稿です。感想お待ちしています。

私は高校を卒業し一人暮らしをしている。卒業と同時に町工場の事務員に就職した今年2年目の社会人だ。

今日の仕事を終え、スーパーで一通り必要なものを買い揃えた。今、その帰り道。

空を見上げると西の方がオレンジ色になっている。季節は春、ちょうど夕暮れ時でやや肌寒くなってきた。


町の外れにそのドラッグストアはあった。

ドラッグストアといってもかなり小さく、小さなコンビニぐらいの大きさの建物だ。

場所的に目立たないこともあって、お客さんが入っているのを見たことがない。

当の私も一度もそこに入ったことはない。ただ何かの拍子に通りかかったときに、ちらっと目に入るぐらいである。

その店には「中村薬局」と書かれた看板が掲げられている。電灯は点いているようだが中はやたらと薄暗く、何が置かれているのか外からは判別がつかない。

店員は存在しているのか?というかそのそも営業しているのか……という基本事項すら疑問符が出る始末である。


そうそう、なぜそのドラッグストアの話をしたかというと、それはある掃除道具の買い忘れだった。それはコロコロという掃除道具で、欲しいのはその替え芯だ。

今からまたスーパーへ買いに戻るのも正直遠くてかったるい……と軽く悩んでいた時、あーそういえばこの近くにドラッグストアらしきものがあったなと思い出したのだ。


とりあえず私は店に入って目当てのものを買おうとした。ドアを開けて入店するも予想通り「いらっしゃいませ」などという明るい反応は無い。そしてやはり店内は薄暗く、蛍光灯は一応なんとか点いてはいるが蜘蛛の巣が張っている。

あとなんとなく蒸し暑い。今は4月で夕方には肌寒さが感じられるぐらいなのだが、入った瞬間ムワッとするような熱気を感じてしまった。おそらく窓を閉めっぱなしにしていたのだろう。まあ、特に気にすることもなく目当ての商品を探した。


意外にもその店は品揃えは悪くなかった。

というより品種は多いが同じ種類の商品が極端に少なく、ほぼ2つか1つしか置かれていない。私はとりあえず目についたコロコロの替芯3本セットを1つレジに持っていった。

レジには40代後半ぐらいの店主と思われるおばちゃんがいた。とりあえずレジ台にそれを置く。

やはりめったにお客さんが来ないようで、ちょっと慌てた風な仕草で台に置かれた替芯セットを見て言う。

「あ、いらっしゃい400円です」やや低いが明るくハッキリとした声だった。

私は値段はまあまあ安めだな、と思った。

財布から小銭を探している間、そのおばちゃんは私の姿を見上げていた。

「はい400円」とレジの受け皿の上にお金を置くと、

「お客さん、学生さん?」と予想外な話をふられる。なぜかやたら嬉しそうである。

「あ、違います社会人です」と笑顔で返しておく。スーツでなく、よくあるカーディガンとロングスカートだったため聞かれることが多かった。

「そう!きれいだし顔もいいしモテそうねえー」やたら馴れ馴れしかったがまあ悪い気はしない。とりあえず私の顔は愛想笑いで固定されていた。

「20代?もしかして10代?」

等と矢継ぎ早に質問を投げかける。正直めんどくさかったが、やたら迫力があったので1つ1つ親切に答えてしまった。時間にしたら五分ぐらいかな……

まあ、話好きなおばちゃんで個人的に嫌ではなかったがそろそろ帰りたい、

「あの、ごめんなさいそろそろ……」やや遠慮がちにやんわりと会話を終わらそうとする。

「あ、ごめんねえついつい喋りすぎちゃって、そうそう実は新商品があって……」

などと長話を反省するのかと思いきや、更に話を広げてくる。

「健康に良いミネラルウォーターがあるんだけど試飲していかない?」と奥からさらに何やら持ってこようとする。

「あ、大丈夫です。私去年の健康診断オールAなんで」とさらっと断りを入れ、コロコロの入ったビニール袋を取って帰ろうとした。

そのおばちゃんはニコニコしながら気になることを言ってきた。

「ありがとうございましたー、ウチは()()()()()()だから万一不良品があれば持ってきてね」

そんな事言う?わざわざ?……よっぽど商品のクオリティーに自信があるのかな?

などと考えつつ軽く会釈をしドアを開けて店を出た、ゴトンと音が響いた。

振り向くと店の裏手からタンスやら粗大ごみらしきものがトラックに運ばれていく。どうやら店の裏手が個人宅になっているようだ。おそらくあのおばちゃんの住宅なのだろう。


今度こそ家に帰ろうと逆方向に振り返り、数メートルほど歩いたところで見覚えのある姿が目の前にあった。高校の時の同級生の井田明である。

「あ……」

ちょっと厄介な相手だった、私は井田が自分に好意があることを知っていたのでちょっと気まずい。

別に付き合っていたわけでもなかったがとっさに言葉が出てこなかった。とりあえず井田が何か言うのを待ってみたが様子がおかしい事に気づいた。それは井田の表情だった。

かなり険しい()()()()()()()()()を見ているかのような顔つきだった。

まあ井田も気まずさから固くなっているのだろうと予想して笑顔を向けると、途端に井田も笑顔になった。非常にわかりやすい性格である。

「植村!久しぶり……」ややおどおどした様子で井田は言った。

植村景子というのが私のフルネームだ。もちろん下の名で呼び合う間柄でもない。

「あ、うん、ごめん実はちょっと急いでて……」申し訳無さそうに目を細めてみる。

「あ、そ、そうなん、呼び止めてごめん」と言う言葉を聞き、ちょっと安心して早足で帰宅した。


私は家に帰って買ってきたものを整理していた。

食材は冷蔵庫に、それ以外の雑貨や郵便物を自室に持っていき、整理を終えると井田のことを考えていた。特にあの顔……アレはちょっとただの動揺や緊張のそれとは違っていたような気がしたのだが……。


とまあ考えていても仕方がないので、今日のところはお買い得だったコロコロの品定めといこう。

早速コロコロの替芯を本体にはめてみた……?いや、なんだコレは?

私がはめ込んだそれは粘着力のかけらもないただの紙テープであった。試しに普段立ち入らないややホコリの溜まった場所でそれを転がせたところ、そのロールは一切汚れや塵をつけることなく新品同様の輝きであった。これはひどい、品質が低いとかそんなレベルじゃない。もはや商品として成り立っていない。

「ウチは高品質が売りだから――」

……(嘘つくのやめてもらっていいっすか?)

とあるインフルエンサーの言葉が脳内で再生される。

あれだけ愛想よくおしゃべりしていたおばちゃんだけに憤りの気持ちも大きかった。

流石にこれはひどい。幸い明日は休日だ、文句を言いに……いや返品させてもらおう。


次の日の夕方、私はまたそのドラッグストアまで足を運んだ。もちろんあのコロコロの芯を持って。

昨日と同じようにドアを開けるとやはり暑かった、昨日よりも暑いかもしれない。

「あのっ!」

おばちゃんは昨日とほぼ同じスタイルでレジの椅子に座っていた。

「あら、こんにちは。また来てくれたのね!」等と嬉しそうな顔で私を歓迎する。

私は渋い顔をして、やや強めの口調で言った。

「昨日買ったコレなんですけど、全然ゴミが取れないんで返品したいんです」商品をおばちゃんに見せ、指を指しながら粘着力がまるでないことを説明した。するとおばちゃんは慌てて

「え……あっ!ごめんなさい。コレ違うやつだったわ……」申し訳ないといった大げさな身振り手振りをして

「ごめんねー、今お詫びのお菓子とちゃんとしたやつ取ってくるから待ってて!」と奥の扉を開け、ピシャリと閉めた。


おばちゃんの早すぎる対応に私はちょっと笑ってしまった。しかしやはり購入したものが正規の商品じゃなかったことが分かり安心した。

すぐにゴウンゴウンと換気扇か何かが動き出す音が聞こえ出す。やっと店内の熱気をなんとかし始めたようだった。まあ普段は客もこないし色々節電しているんだろうなと思った。

それにしてもここの店は独特だ。商品自体はどこにでもあるものだったが、パッケージが全て無色無字のビニールであり企業のロゴはおろかバーコードすらない。こんな売り方があるんだろうか?

そもそも商売として成り立つのだろうか?もしかしたら潰れない文房具屋みたいに他に何か事業や新商品を開発していたりするのかな?等の疑問が湧いてきた。

ちょうど気になったところだったのでそのことを尋ねてみよう、などと考えていたらなんとなく頭がぼんやりしてきた。

(眠い……あれ……おかしいな)

急に気持ちの良い眠気に襲われ、私は膝をついた。日常ではありえないくらいの眠気だったので抗うことはできなかった。


一方、景子の同級生だった井田は自宅で昨日のことを思い出していた。

たしかに過去に好きだった女子に適当にあしらわれるように去られたのはショックだった、でもそれよりあの時見た光景が彼の脳裏から離れないでいた。

――アレは、あのトラックの荷物からはみ出ていたものは、間違いなく……人の手だった……


店の中で私の視界はそのまま暗くなり、床にうつ伏せに倒れた……ような気がする。――それ以降のあの店での記憶はない。



「薬入りのミネラルウォーターは?」

「飲ませられませんでした、代わりに不良品で再来店させ例のガスを……」

「フン、なるべく使いたくなかったが仕方あるまい。しかし2日連続とは運がいい」

「はい、特に今回の客は上物ですよ。この通り見た目もいいし、本人の話では健康状態も良好のようです。慰みものから労働まで何でも使えます。きっと値が釣り上がることでしょう」

「おう、値が確定しだい報酬は例の口座に振り込む」

「よし、お前ら仕事だ」

「はい」

「昨日のようなヘマはするんじゃないぞ、タンスの扉はしっかり閉めろ」



ゴトン、昨日と同じトラックにタンスが運ばれていく。

それを見送った後、おばちゃんは()()()()換気扇を回し催眠ガスを排出させていく。口元は邪悪な笑みで満ちていた。


トラックに揺られたタンスの中で私の意識はぼんやりと回復してきていた。

……どこに向かうのか?……私はどうなるのだろうか?

――いや、どうでもいい。ここからは、覚悟を持つこと……それだけだ。


地獄の釜はまだ開いたばかりなのだから。



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