不可思議祓いの日常
藤堂隆介は、町はずれにある喫茶店に足を運ぶ。
一見喫茶店というよりは古物屋のような風貌のその建物は、中に入ると数十年ほど時間を巻き戻したような古風な内装だ。建物自体ものどかな住宅地の丘にポツンと建っていて、人を寄せ付ける気があるのかないのかよくわからない店出しだ。
ドアに手をかけるとベルがガランガランと音を立てる。
「おーい、叔父さん。来たぞ。」
奥から白を基調にした派手なシャツに短パンをはいた叔父が出てくる。
髭が似合っているワイルドな風貌だが、声がハスキーでかつ落ち着いているので、見た目とのギャップが激しい。考え方も理論的な人なので、隆介はこの藤堂史郎という男を尊敬している。
「隆介、正幸はどうだ?よくなったのか?」
「父さんなら最近早く釣りに行きたいとかいいはじめたよ。渓流釣りで転落して顔の骨を折ったってのに怖くならないのが不思議だよ。」
隆介は父がキライではないが、今回の転落事故でもこりずに冒険に出かけたいと思う釣りへの執念には呆れていた。
「まぁアイツは昔からなんでも極めるタイプの人間だからな。お前にその遺伝子が引き継がれると思ったんだが、どうやらお前は俺似なようだな。」
「俺はそれでありがたかったけどね。客観的な視点でものを見れるから家族を好きでいられるよ。」
そうかと史郎が笑うと、そのまま仕事の話に移った。
「で?今日の依頼人は来たのか?お前の友達なんだろ?」
駐車場のほうを軽く体を乗り出して確認するそぶりを史郎がみせると、一人の女子生徒が佇んでいた。
「おい隆介、あの子外で待たせたのか?早く中に入れてやりなよ。」
え、もう来てたのかと隆介は驚きながら急いで外に向かう、駐車場で案内をしながら女子生徒を導いてくる。
ガランガランと再びドアを開ける音から少し間をおいてこんにちは~と女子生徒が挨拶をする。
「はじめまして、蔵蔵沙苗と申します。」
「藤堂史郎です。とりあえず奥で話を聞こうか。」
クラグラサナエと名乗る女子生徒はかなりお淑やかで、どこか年齢に見合わない雰囲気が漂う。
この女子生徒は隆介が通う阿賀坂高校の生徒会の書記を務めているらしい。
隆介も生徒会として活動している中、史郎の噂を聞いて相談に乗って欲しいとのこと。
「で蔵蔵さん、妙なアプリが入っていたんでしょ?」
蔵蔵沙苗は表情を変えずに二人にスマホを見せる。
「そうなんです。ふとしたときにこれが入っていて、私がアリスだなんだと・・・。場所を指定されたんですが怖くて・・・。削除もアンインストールもできないのでおかしいなと思ったんです。で、隆介くんに聞いたら史郎さんが”不可思議祓い”をやってると聞いたのでおじゃまさせていただいたんです。」
藤堂史郎は本職は投資家だが、同時に「不可思議祓い」も行っていた。
趣味とか副業とかではない。単なる人助けとして、自身が持つ知識と少しの霊視能力で霊やら妖怪、不可思議な現象を解決するモノだった。
「専門家というわけじゃないが、助けにはなれると思うよ。」
史郎がそういうと、沙苗は深々と頭を下げた。
「で、叔父さん。このアプリはなんなの?アリスって?」
「こいつはある種の妖怪に近いものだ。」
隆介が眉間にしわを寄せる。
「妖怪?アプリを使う妖怪なんているのか?」
「コイツはな、"慰安柱"という妖怪だ。」




