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退役兵士と砂糖人形  作者: 凪雨タクヤ
17/22

クロエの日記

日記を開くと、「私の日常を記録して自分を知ろう。」という一文が見えた。

そのうえからシミのような文字で、「怖い」という文字。

明らかに"何かがあった"ようだ。


-

8月2日 

 日記を書くことにした。こうすれば少しずつ自分のことが知れる気がする。

 私は自分の過去を知らない。でも先生はたくさんの本をくれた。

 知識をつけていく中で自分がどんな人間かを知ろうという。

 確かにそれなら"今"の自分を知ることはできる。先生に従うことにした。

-


明らかに今の状況と酷似している。それにこのクロエという人物もあの先生に本や話を与えられているということがわかる。この瞬間から私はすでに「何かに巻き込まれている。」という実感があった。ふと、時間か記述されている部分を発見する。


-

8月3日 23:04 

 お気に入りの本を見つけた。

 先生と谷を散歩する。先生が一緒にいてくれると嬉しい。

 先生が私にいろいろ話をしてくれる中で、愛情があると実感が湧く。

 私は怖いことが起きても、この人と一緒なら大丈夫。

-


妙だ。先生と谷を散歩するのは理解できる。しかし時間がおかしい。23時04分?一体、果たして、こんな深夜に危ない谷を散歩するのだろうか・・・。少なくともあの神経質な一部分がある先生がこんな時間に少女を連れ出すだろうか。それに日記に詳細に時間なんて書くだろうか?ましてや4分のように分刻みで。

さらに日記を進める。


-

9月12日 10:28

 私の願いは自分を知ること、先生は今日も面白い話をしてくれた。「成功を映す鏡」の話。

 生粋の悪人がこの世界に生まれてるなんて想像したくないけど、悪い者の望みは滅びる。

 少なくとも私は自分は正しい者だと思う。喜びをもたらさんことを。

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これは私自身の日記なのか?もう何もわからなくなっていた。私はあの医者に騙されて記憶を消され続けているの?しかし本で見た。解離性健忘。なんらかのストレスがあって重要な記憶が抜け落ちてしまう病気。私がその病気になっていて、あの先生に治療を受けているということ?だとしたら私のもともとの家族構成や過去を話さないのには理由があるの?さらに日記を進める。また「時間が記録されている」箇所がある。


-

11月25日 29:11

 私に力を与えてくれた。勇気の力。今日先生が海岸で落ちそうになった。

 私は必至に手を伸ばした。

 先生を引っ張り上げるとき、右腕がボロボロになってしまった。

 帰りの道で腕がボトっと落ちてしまった。

 少し歩きづらかったけど、帰ったら先生がまた右腕をくれた。

-


その文章はまさに不気味。意味がわからない。まず時間だ。29時11分?0時を回って朝の5時だとでもいうの?そんな書き方をするなんて聞いたことがない。さらにこの日記には「腕が落ちた。先生が腕をくれた。」という記述がある。まるで機械人形を育ててるみたいじゃあないの?!私の正体は一体なんだというの?


-

1月17日 55:12

 山々や丘が歌っている。木々が手を叩く。

 先生から作業室に来ないかと誘われた。怖い。何か嫌な予感がする。

 これを書いた後に気持ちを落ち着けてから行こう。


1月18日 15:13

 私は自分を捨てることにした。それが最も大きな愛だから。

-


日記はここで終わっている。

私は日記をもとの場所に戻した。雨が降ってきた。強い雨のようだ。窓がガタガタと騒ぎ出している。

脱力してその場に崩れ落ちる。これからどうなってしまうのだろう。私はなんなのだろう。先ほどの恐怖と不安がどんどんと増大して、世界がみるみるうちに暗くなっていく。幸せな夢の国がドロドロと溶けて<死>に落ちていく感覚。胸騒ぎが収まらない。


"コンコン"


ドアが鳴った。

「クロエ?大丈夫かい?迎えに来たよ。」


先生が迎えに来た。

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