劇薬の取り扱い
横に長いダイニングテーブルの水平線から皿が消える。
「つまり先生は何を言いたいのかしら。」
少し怒っているのか?あきれた空気すら感じる。さっさと答えればいいのにと彼女は続けた。
「評価というものは人それぞれで、決まったものなんてないということだよ。繋がった人の絆の価値で決まるというのも飽くまでも僕の考え方だ。」
つまるところ”気にするな”ということである。簡単なこの一文を伝えるためにあまりにもまわりくどい話し方をしてしまったことに、やはり彼女はご立腹のようだ。
「すまなかったよクロエ、しかし君は、こんな風に簡単に言うべきではないが・・・愛されてるんだよ。」
そう、この僕が彼女を愛しているんだ。人間の価値だとか抜きに、幸せになって欲しいという気持ちは本当だ。
「僕やスミさんだって君が好きなんだ。幸せになって欲しいんだよ。」
心の中で思ったことでも、しっかりと口に出して伝えることは必要だ。
「愛ね。」
くだらないとでもいいたげな彼女の表情は冷徹だ。
「先生、私、愛ってものは尊いと思う一方、危険なモノでもあると考えてるわ。薬や火や言葉に近いものを感じるの。確かに人に必要だし、だれかを幸福にする力があるわ。」
その通りだ。愛があるだけで幸せに感じることさえある。しかし彼女の口ぶりからして続くことばは”だがしかし・でも”という言葉だ。
「でもそれは使い方や容量を守らないと劇薬に、業火に、ナイフになるのよ。末期になると、人を本当に中毒患者のようにしてしまうのよ。」
「・・・経験があるかのような言い方だね。」
「そう。あるわ。本当につい最近ね。」
そういうと、彼女は恐怖の体験を話し始めた。