奇妙な隣人②
小説家はうーんと声を出しながら、右手であごをつまみ左手で右手の肘を支えていかにも「考えています。」という様子で数秒停止した後答えた。
「それなら、うちから西へ少し進んだところにある大きなマンションに住んでいるDさんがそうかもしれないな。」
意気揚々と答えているが、男Aが聞きたかったのは奇妙な人間だ。疑問を交えて聞き直す。
「その方のどんなところが奇妙なんですか?」
「僕は小説家だろう?作品に面白いと感じさせるネタをつけるためにいろいろ取材したことがあるんだが、中でもDさんはぶっちぎりだったよ。」
小説家Cはまるで初めて遊園地に来た子供のように嬉しそうに話す。
「一言で言うと、この町で最も裏がある人物だ。しかし今日Aさんがあの人にあってもその部分は見えないだろうな。」
奇妙な部分は垣間見えないとのことだが、一応AはD宅に向かってみることにした。
確かに教えられた場所にマンションがあり、建物の前まで来ると端末があった。その部屋番号を押してインターフォンを鳴らす。
建物と部屋番号を見て気づいた。ここは男Aの友人宅だ。ガチャリと音を立ててDが出てくる。
「あら、Aさんじゃない。家の主人がお世話になってます。」
DはAの友人の妻だった。
「こんにちは。ちょっとお聞きしたいことがあって来ました。」
「え?なになに?w」
突然どうしたのかとうろたえながら、笑いで何かをごまかすようにして受け答えする。
男Aは失礼にならないよう、奇妙だと話を聞いてきたとは伝えず、テレビの取材をするかのようなアンケート方式で聞いているというニュアンスで話を始める。
「えぇ奇妙な人ねぇ・・・。」
「逆にご自身で変だなぁと思う一面とかでもいいですよ。」
Dにも探りを入れてみたが、出てくる情報は旦那との馴れ初め、子供はいつ欲しいか、気に入ってる家具があるなどの普通のモノばかりだった。
結局、D本人からは大した情報は得られなかったが、男Aは一つだけ違和感に感じたことがあった。
靴だ。靴が妙だ。友人(Dの夫)の靴ではない何者かの靴がある。子供はいないと言っていた。おそらくこれは真実だろう。だとするとこの靴は・・・。
男Aは友人の家庭に首を突っ込むのは余計だと感じつつ、その友人の未来を案ずるのだった。
そして帰り際、同じ質問をした。
-この町で一番奇妙な人は誰ですか?-
今度は答えがすぐ返ってきた。
「私の友人が言っていたけど、寝るときも起きているときもすべての部屋の明かりがついている人がいるって聞いたよ。」
その人物には心当たりがあった。
男Aは教えられた道順でその家へ向かう。
道を進む。
標識を曲がる。
坂を上る。
今度は下る。
もう一度、標識を曲がる。
そして突き当りのところにその人物の家があった。そうだこの家だ。
「ここは、僕の家だ。」
男Aは自分の家へ帰ってきた。