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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

予言ラジオ

作者: 篠原 鈴音

 当時、私は中学3年生でした。

 志望校は有名な学校で、かなり頑張らないと難しいくらいには偏差値の高い高校です。


 だから部活を引退した後は、今振り返ってみて、自分でも驚くほどに勉強漬けの毎日でした。

 そんな時です。あのラジオに遭ったのは。



 ところで、静かなほうが集中できるタイプと、雑音がある方が集中できるタイプの人がいますよね?

 あの頃は毎日夜遅くまで勉強していたんですが、私はちょっと雑音がある方が集中できるタイプでした。


 だけど動画だと画面の動きに見入っちゃうし、かといって友達との通話もつい雑談しちゃって進まない。

 うちの家族はみんな早寝なので家族の生活音とかも聞こえないし。


 私はラジオを使っていたんです。

 ラジオなら音声だけだし、音を絞れば軽い雑音になって、夜遅くても問題ないから。

 だからラジオのアプリを入れて、音をギリギリまで小さくして、ずっと勉強していたんです。



『今日の星座占い~!』



 集中してるときに突然そんな声が聞こえて、かなりびっくりしました。

 お天気お姉さんみたいな、明るくて爽やかな感じの声です。


 音はスマホからでした。すぐにラジオアプリからだって気が付きました。

 おかしいな、音は最小にしていたはずなのになって、画面を見たら夜中の2時過ぎで。そんな時間まで集中していた自分にもびっくりしましたよ。


 もう夜遅いし、明日は学校だから寝ようって勉強道具を片付けながら、どうせだからと思ってラジオに耳を傾けました。


『○○座のあなた! 今日はケンカしちゃった友達と仲直りできるかも!

 ラッキーアイテムはなくした消しゴム!』


 そうだといいな、って、その時はそのくらいしか思いませんでした。

 その日は確かにちょっとしたことで友達とケンカしちゃって、ちょっと気まずくて。

 いつも使っていた消しゴムもなくしていましたし。



 それで、次の日。


「ねえ、今これ落とさなかった?」


「えっ?」


 そのケンカした友達に、なくした消しゴムを拾ってもらいました。

 それがきっかけで仲直りできたんですけど……その消しゴム、なくしたのは数日前だったんですよね。

 友達はカバンから落としたのを見たって言ってましたけど。



 それから、毎晩夜中の2時に、そのラジオ番組を聞くようになりました。

 集中しちゃって、気づいたら毎回、その時間になってたんですよね。



『今日の星座占い~!』



 最初の夜の失敗があったから、確かに音量は最小にしていたはずなのに、それでもその声が聞こえてきました。


 時間を見たらまた2時。

 その時はちょっとだけ疑問に思いましたけど、でも集中し過ぎちゃっただけだろうって思いました。

 気が付いたらもっと遅い時間になってた、なんてことになっても嫌だし。


 また片付け始めながらラジオを聞いていました。

 その日の占いは「先生に当てられちゃうかも!」で、実際に翌日の授業で当てられちゃったんです。



 それから、次の日も、その次の日も。

 本当に、すっごく当たるんですよ、そのラジオの占い。まるで予言みたいに。

 だからだんだん占いを、そのラジオを楽しみにするようになりました。


 いつも星座占いで気づくので、そのラジオ番組の名前は知らなかったんです。

 だから勝手にその番組を「予言ラジオ」って呼んでました。



 それで確か、ラジオを聞き始めて一週間くらい経った頃だったと思います。



『今日の星座占い~!

 今日は友達がケガをしちゃうかも! ラッキーアイテムは絆創膏!』



「えっ?」


 思わず片付けの手が止まりました。

 だって、今までの怖いくらい当たるラジオの占いですよ。いくらなんでも不吉じゃないですか。

 ちょっと不安に思いながら学校に絆創膏を持って行ったんですけど。


「痛っ!」


「だ、大丈夫!?」


「うん、平気。ちょっと指を切っちゃっただけだから」


「……絆創膏持ってるけど、使う?」


「あ、助かる。ありがとー」


 その時は不安も忘れて、ラジオの占いのお陰で絆創膏持っててよかったなって、そう思ったんですけど。



『今日の星座占い~!

 お腹が痛くなっちゃう子がいるかも! ラッキーアイテムは胃薬!』


『今日の星座占い~!

 転んで捻挫しちゃう子がいるかも! ラッキーアイテムは湿布!』


『今日の星座占い~!

 階段から落ちてケガしちゃう子がいるかも! ラッキーパーソンは保健の先生!』


『今日の星座占い~!

 気を付けてても包丁で手首をざっくり切っちゃうかも! ラッキーアイテムは包帯!』



 ……そんな感じで、だんだん怪我が大きく、ひどくなっていくんですよね。もうすっごく気味が悪くて、怖くて。

 階段から落ちた子なんて、後ろに誰もいなかったのをその場にいた人たちが見てるのに、「後ろから押されたんだ」って言ってたんですから。



 …………あ、そうです、はい。

 この手首の包帯は私のことを言ってたみたいで、ざっくり切っちゃって何針か縫ったんです。

 受験も追い込みに入ってたから、利き手じゃなくてよかったなって、当時は思いました。


 ……そうですよね。気味が悪いんだから聞くのをやめればいいって、当然ですよね。

 でも、ダメだったんです。

 あの時は怖い、気持ち悪い、もう聞きたくないって、そう思っていたのに。


 ラジオは決まって深夜2時だったから、勉強を早く切り上げて寝ればよかったのに、全然思い浮かばなかったんです。

 なんだか不思議なくらいに自分でも毎晩勉強を続けて、ラジオを聞き続けていました。



 それで、ずっとそんな風に毎晩夜遅くまで起きてたから、その日は少しうとうとしちゃってたんですよね。


『今日の星座占い~!』


 はっ、と目が覚めました。あ、ラジオが始まってるって。



『今勉強をしながらラジオを聞いているそこのあなた! 運勢はサイアクです!

 今日死にまーす!』



「……………………え?」


 頭が真っ白になりました。


『ラッキーアイテムはお手紙! 遺言を残しておくと安心です!』


 ラジオの声、すっごく明るくて爽やかで、お天気お姉さんみたいだって、最初に言いましたよね。

 そのトーンでずっと言うんです。


『お勉強を放っといてぼーっとラジオを聞いているあなた!

 今日死にまーす! ごめんね、諦めてね!』


『○○に住む受験勉強中の○○さん! そう、今息を飲んだあなた! 今日死にます!』


『死にます! 死ぬよ!死ぬ!死ね!死ね!死ね!』


『死ね!死ね、死ね、死ね、』



『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししししし』



「ひっ……!」


 あの爽やかな声はもう跡形もなくて、自分も、社会も、人生も、人間も、何もかもを呪うような声でした。

 本当は触りたくもなかったんですけど、慌ててスマホの電源を落としました。それでぷつっとラジオは途切れました。


 だけど声はずっと耳の奥にこびりついて、部屋は静かなのに、何も言われてないのにずっとあの声で呪われてるみたいで。

 あの夜は一睡も出来ませんでした。



 次の日。

 ひどい顔色をしてたみたいで、親にも、一緒に登校してる友達にとても心配を掛けてしまいました。

 本当は休めって言われたんですけど、両親は共働きで、家にひとりになっちゃいますから。

 それなら学校に行ったほうがマシだと思って。



 登校途中の道に、結構車通りの多い交差点があるんです。そこで友達と信号待ちしていて、


「あっ、」


 背中を押されました。車通りの多い道で、歩行者用の信号は赤でした。

 目の前に車が迫ってきます。それがスローモーションに見えて、


『し ね』


 耳元でだれかが言いました。






 ……気が付いたら、病院のベッドにいました。


 なんでも、近くにいた人がとっさに腕を引っ張ってくれたらしくて。

 入院にはなりましたけど、命に別状はありませんでした。


 運転手さんはもう平謝りって感じで、入院費だけ出してもらいました。

 ……運転手の人が悪くないのは分かってたんですけど、どうしてもってことで。今でも申し訳なく思います。


 それで、運転手の人に怪我がないか、聞いたとき。


「うん、かすり傷ひとつないよ。

 ああ、でも、車に掛けていたお守りだけ、盛大に破れちゃったかなあ」


『チッ』


 だれかが耳元で、舌打ちをしたような気がしました。


 ……実はその運転手さんとは、今でも付き合いがあるんですよ。お歳暮とか、年賀状とか送り合ったりしてるんです。

 お出ししたそのジュースも、運転手さんからのお中元で頂いたんですよ。




 退院してから、あらためてアプリでラジオ番組を確認してみました。

 はい、思った通り、当てはまるような番組はありませんでしたよ。

 夜中の2時に占い番組なんて、一切やってなかったんです。




 私はあれから、夜更かしをやめました。どんなに遅くても、1時には眠るようにしています。


 あなたも、気を付けてくださいね。

 私の時がラジオだっただけで、あなたの時がそうだとは限りませんから。

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