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4、馬車の中(ミルディア視点)

ミルディアは目の前の男性を観察する。

ラグナード・フォン・リーフェンシュタール。

長身痩躯。騎士はもっと筋肉がついてがっしりした体格の人が多いから意外だ。

灰銀色の髪に、優しげな雰囲気の美男子と言っても過言ではない顔立ちだが、大きな瞳の色のインパクトが強すぎて全ての印象をかき消してしまうほどだ。

瞳の色が赤い。

自身の紫の瞳も珍しいと自覚しているが、神殿には数人いる。

しかし、仕事で人と接することが多いが、赤い瞳の人は彼以外に1度も見たことが無い。


侯爵家の嫡男でありながら異母弟に爵位を譲り、騎士となって1年と経たずに近衛騎士団のメンバーとなったらしい。

侯爵家の出身と言うことで身元が確かなことが有利に働いたことは間違いないが、それでも剣の腕はかなりのものと聞く。

その剣の腕と瞳の色のせいで、「剣の魔人」と呼ばれることもあるらしい。

力の強い魔物は、赤い目をしていることが多いからだ。

実際目の前にいて妙な気配は感じないから、魔物の血を引くなんてことはあり得ないが。

それよりも、微かだが何か別の強い力を感じる……ような気がする。

それにしても大きくなったものだ。昔は私より小さかったのに、とミルディアは気付かれないように微笑む。

それと同時に、胸の奥が小さく痛んだ。

「トリー、私は……」

ミルディアの呟きは言葉にならなかった。


ラグナードは少し年下のはずだが、年齢以上に見えるのは意外と苦労を重ねているからなのだろうか。

いやしかし、それだと自分が苦労していないと言うことになるが、そんなことはない。

伯爵令嬢とは言え、ミルディアは蝶よ花よと甘やかされて育ったわけではない。

ミルディアの紫の瞳は、優れた聖魔法の使い手の証だ。

紫の瞳を持つ者は巫女の中でも少数派だが、例外なく強力な聖魔法が使えるため、巫女として神殿に勤めることが義務付けられている。王族でもなければ拒否はできない。


ミルディアの母も元巫女だったため、すぐにミルディアの運命に気付いた。そのため、物心つく前から厳しく教育をした。

母は貴族社会のマナーと巫女の知識、力の使い方を。

昔医師をしていた父は毒と薬の知識を。

体術を極めた祖父からは体術を。

祖母からは家事全般と、古い伝承などを。

馬術が得意な兄からは馬術を。

それぞれみっちり叩き込まれた。

愛情深い優しい家族だったが、教育に関しては厳しかった。

しばらく会えていないが、みんな元気だろうか。


そろそろ引退するかな……と、ミルディアは考える。

成人以降、巫女は結婚するために引退するのが一般的だ。巫女の力は遺伝することが多いからだ。

子育てが終わってから神殿に戻る者もいるので、神殿には10代と40代以降の者が多い。

子育て後、神殿に戻るか戻らないかは本人の意思で決められる。ミルディアの母は戻らなかった。

引退するなら、まずは結婚相手だ。

伯爵家なのだから、それなりの相手と縁談もあるだろう。

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