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39、マーガレットの変化

あれから1週間ほど経った。

色んなことがあり、ラグナードは疲弊していた。

「ミルディア嬢」

あれから初めて城で顔を見たミルディアに声をかける。

ミルディアも疲労が顔色に出ていた。

「大丈夫ですか?」

「はい、なんとか」

ミルディアが笑みを浮かべてみせたが、無理しているように見えた。

「マーガレット様のご様子は?」

「……変わりありません」

ミルディアが答えた。


マーガレットは現在、神殿に預かられている。

あの後目を覚ましたマーガレットは、記憶が退行していた。幼児のようになってしまっていた。

母親を亡くした記憶も無かった。

「肉体的や精神的に強いショックを受けると、嫌な記憶を忘れようとして記憶が無くなることがあるそうで……完全に全てを忘れることもあれば、1部を忘れたり……嫌なことが起こる前まで心が戻ってしまうこともあるとか」

ミルディアが説明する。

「マーガレット様は、母上がいなくなる前まで記憶が戻ってしまったのですね」

ラグナードの言葉にミルディアが頷く。

「元に戻ることはあるのでしょうか?」

「わかりません。あまり例のないことのようで」

ミルディアが首を振った。


マーガレットの状態がわかったとき、ミルディアが神殿で預かると陛下に申し出た。

神殿には様々な事情で家族と離れた子や、親を亡くした子たちが巫女たちと暮らしている。

子どもたちの世話は子育て経験のある巫女たちの主な仕事の1つだ。

幸いベッドは少し空いており、ほかの子どもたちと一緒に過ごしている。


「どんなご様子ですか?」

「最初は子どもたちも戸惑っていたのですが、順能力が高いのですね。今ではすっかり仲良くなっています」

ミルディアは安堵した様子だ。

「母恋しさに泣いたりすることもありましたが、子育て経験豊富な先輩巫女たちが上手にあやしています。私もお手伝いしていましたが、とても敵いません」

ミルディアは感服していた。


勢いと言うか独断でマーガレットを神殿に連れて帰ってしまったので、ミルディアは先輩巫女たちに誠心誠意頭を下げてお願いした。

現聖女であるミルディアの頼みを簡単に断れるはずもなく、又これまでの経緯を聞いてマーガレットに同情的な者も多く、特に反対は無かった。

巫女頭を勤める熟年のヘレーナは、5人の子を生み育てた気っ風の良い女性でミルディアとも懇意だったため、スムーズに事は運んだ。

「できる限りの手伝いはする」とミルディアは言ったが、現在はあまり直接関わっていない。毎日様子を見に行ってはいるが。

事務的なやり取りや陛下への報告で神殿と城の往復が増えたことや、後処理で忙しくなっている。


「マーガレット様は、甘えられなかった子ども時代を取り戻そうとしているかのように、回りの巫女たちに甘えて、子どもたちと遊んで過ごしています。今のマーガレット様にとっては必要なことなのでしょう。巫女頭のヘレーナは丁度マーガレット様の母親の年代ですし、上手に甘えさせてくれています。何も心配ありません。それより、今は陛下のほうが心配です」

ミルディアの言葉に、ラグナードは同意するしかなかった。

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