3、馬車の中(ラグナード視点)
ラグナードとミルディアは馬車の中で向かい合って座っていた。
(何を話せば良いのだろう?)
密室で女性と2人きりになどなったことがないラグナードは何を話せば良いのかわからなかった。
しかし、この巫女には自分に対する怯えの色が一切無い。女性には怖がられることがほとんどのため、意外だった。
改めて彼女を観察力した。
ミルディア・ド・フォレスティア。
この国で聖女と呼ばれる存在である。
近くで見るとやや小柄で、どちらかと言うと細身の体つき。だが、簡素な巫女装束の上からでも意外なほどにはっきりとした体のラインが伺える。
ミルクティーを思わせる薄茶色の髪はふんわりと優しく波打っている。
男の目から見ると、化粧はしていないように見えるが、よくわからない。
色白の小さな顔に小さめのパーツがバランス良く収まった顔立ちは、美女とは言い難いが、清楚、上品、可憐……そんな言葉か浮かぶ。
そう言えば、
「可愛いが少々地味だな」
と、ウィルフレッド陛下が言っていた。
陛下の好みは華やか、艶やかな、大輪のバラのような美女だ。
彼女は例えるなら、野に咲く素朴な花と言ったところか。
何より目を引くのは、その瞳の色だ。鮮やかな紫の瞳を持つ者は珍しい。
騎士団の仲間で
「紅茶のシフォンケーキに、生クリームとスミレの砂糖漬けを乗せたような感じの方」
と表現した者がいたが、言い得て妙だと感心した。甘く柔らかそうな雰囲気を纏っている。
時折ふわりと香る優しい花のような香りが、またその印象を強くする。
「来訪者の緊張をほぐせるように、植物から抽出したお香を焚いているのです」
と神殿の者から聞いた記憶があるから、神殿で暮らす者にはその匂いが染み付いているのだろう。
社交界のパーティーで感じる化粧品と香水の匂いには辟易するが、この匂いは心が安らぐ。
昨年18歳の成人の義を終えた自分より年上だと聞いていたが、少女の面影を色濃く残した顔立ちと、やや小柄な体躯も相まって、とても年上には見えない。
しかし、穏やかな物腰と落ち着いた振る舞いは実年齢以上に感じられ、少々戸惑う。
そう言えば、生まれは伯爵令嬢と聞いている。その辺りも関係しているのかもしれない。
それにしても、どこか懐かしいような気がするのは気のせいだろうか。
騎士団の訓練場で顔を合わせたことはあるのだが、そうではなく、もっと前から知っているような気がした。
姉に似ているのだろうかと一瞬思ったが、家にある姉の肖像画とは全く似ていなかった。




