36、急転
それから1月ほどは動きがなかった。警備の強化をしていたせいかもしれない。
動きがあったのは、本当に唐突だった。
マーガレットに新しく付けた侍女のジュディがラグナードの元に走ってきた。
「マーガレット様とカラベティアン卿が人払いをされて部屋にお篭りになって、言い争っていて様子がおかしい」
カラベティアンはマーガレットの父親だ。
ジュディは言わば諜報のために付けた侍女で、ウィルフレッドが信頼を寄せる有能な人物だ。
ウィルフレッド付きだった彼女がマーガレットに付いたことで、あちら側は喜んだだろう。
しかし、その後特に動きが無く、イライラしていたのかもしれない。
ラグナードが走ってマーガレットの部屋に向かっていると、大きな音が聞こえた。
「マーガレット様!」
ノックもせずに慌てて扉を開けたラグナードの目に飛び込んできたのは、絨毯に広がる赤い染みと倒れた2人の姿だった。
「カラベティアン卿……マーガレット様……一体何が……」
ラグナードが呟く。
先程の物音に人が集まってきた。
「医者と巫女を呼べ! ミルディア嬢は今日は城にいるはずだ!」
カラベティアン卿の傷を押さえて血を止めながらラグナードが叫んだ。
「ミルディア様は先程、新年のお祭りの打ち合わせで陛下に呼ばれて……」
ジュディがラグナードを手伝いながら答える。
「誰か、すぐに呼んできてくれ!」
扉に集まっていた騎士団員たちに指示を出す。
騎士団員数人が走り出した。
「頼む、間に合ってくれ」
ラグナードは祈る気持ちだった。