30、神龍とラグナード
「少し泣かせてやれ。15年間抱えていた罪悪感が解消されて、初めて友人を失った悲しみと向き合えているのだから」
神龍が言う。
「今、お前にしか聞こえないように話している。少し話をしよう。お前も、我に聞きたいことがあるのではないか?」
泣いているミルディアを横目に、神龍が言う。
確かに、聞きたいことはあった。
「お見通しなのだな」
ラグナードはため息をついた。
何から尋ねればいいのか悩んだが、
「高祖父のフェリックスが、できるだけ巫女や魔法使いと言った力を持つ者を配偶者とするように言ったのは、邪龍が目覚めることを恐れていたのですね」
「そうだろうな」
神龍は頷いた。
「その、俺は高祖父の肖像画とよく似ていると何度か言われたことがあるのですが、先祖返りとか生まれ変わりとか、そう言うものなのですか?」
「気になるのか?」
神龍は意外そうだ。
「気になると言うか……俺は他人より感情の動きが鈍くて、もしかして高祖父もそうだったのかなと」
「ああ、そのことか。それに関しては我の影響だ。すまぬ」
神龍が謝罪するのでラグナードは驚いた。
「お前の姉が押さえ込めたのは我の力だけでな。感覚はどうしてもお前と共有してしまう。人ではない我が人と同じ感情の動きがあるわけがない。お前の感情が鈍かったのはそのためだ。だが、我と離れた今、少しずつ人らしい感情が戻るのではないかと思うぞ」
拍子抜けしたが、納得の行く答えではあった。
「俺の力は貴方の影響ではないのですね」
念のためラグナードが尋ねる。
「我の力はお前の姉に押さえ込まれたからな。お前の腕がたつのは遺伝とか先祖返りとか、そういうものだろう」
神龍が答えた。
「確かに、お前とフェリックスは見た目も中身も良く似ておるが、お前はお前だ。フェリックスの生まれ変わりであろうとなかろうと、何にも縛られずお前らしく生きれば良い。お前の姉もそう望んでおるだろうよ」
神龍が空を見上げた。
「感情が戻るなら、この赤い瞳も戻るのでしょうか」
ラグナードが続けて尋ねた。
「戻った方が良いか?」
「それは……」
ラグナードは言い淀んだ。切実に戻りたいわけではない。
金色だったときの記憶がほとんど無いので、今さら戻っても違和感がありそうな気もするが、他人を怖がらせることがなくなるならその方がいいだろうか、と思っての発言だった。
「瞳の色に関しては、今後どうなるか我にもわからぬ。初めてのこと故な。だがお前は、どちらでも変わらず生きていけることだけはわかるぞ」
神龍が笑った気がした。