28、邂逅・2
艶やかな黒髪とラピスラズリのような瞳は昔のままだ。
すらりとした長身と長い手足、それと顔立ちは今のラグナードとよく似ている。
ラグナードのほうがやや優しげな印象を与えるのはなぜだろう。ヴィクトリアがずっと神龍に抗い続けていたためか。
意思の強そうな切れ長の瞳から与える印象は、正室の繊細な美しさや側室たちの艶やかさとはまた違う。
クールビューティーと言う言葉を体現したかのような美女だ。
社交界デビューでもした日には、瞬く間に話題をさらったに違いない。
「トリー……」
その姿を見たミルディアの目に涙が溢れる。
「ミル……」
触れることは叶わぬが、確かに2人の手は重なっていた。
「ごめん、トリー……ごめんなさい」
ミルディアが泣き伏した。
「なぜ謝るの?」
「あの時、もし私が強く止めていたら……」
きっと未来は違っていた。ミルディアは長年自分を責め続けていた。
「あなたのせいではないわ、ミル。あれは私が選んだ結果よ」
ヴィクトリアはきっぱりと否定した。
「あなたがもし止めても、きっと何らかの手段で強行突破していたわ。それに、あいつと直接やり取りしたのは私だもの」
確かにそうだな、とラグナードは思っていた。
「だから、自分を責めないで。あなたの責任なんて一欠片もないの」
ヴィクトリアは微笑み、ミルの頬を撫でるような仕草をした。
そして、
「ラグナ……」
ヴィクトリアが立ち上がったラグナードを見上げる。
「本当に大きくなったのね」
ヴィクトリアは感慨深げだ。
「はい、姉上。俺はもう大丈夫ですよ。それから……」
ラグナードが神龍のほうを見つめ、ヴィクトリアもそれに倣う。
「姉上が押さえ込んでいたのは、あの神龍です。あの神龍は俺を救おうとしていただけで、乗っ取ろうとしていたわけではありません。姉上を殺した奴とは違います」
ラグナードの説明に、ヴィクトリアはまだ不信そうな顔をしていた。
「本当に……?」
「本当だ、と言っても納得し難いだろうがな」
神龍が答える。
「トリー、神龍が乗っ取ろうとしていたなら、あなたを傷つけてでもそうしていたと思うの。それをしなかったと言うことは、その力が無いか、もしくはあなたを傷つけまいとした結果ではないかしら?」
ミルディアが言葉を添える。
目の前の神龍からは圧倒的な力を感じる。神聖な力だ。
ヴィクトリアの力をはね除けることは難しくなかったはずだ。
「そうね……その通りだわ」
渋々と言った風ではあったが、ヴィクトリアは認めた。
「姉上、もう自由になっていいのです。いつまでも縛られないで」
ラグナードが優しくヴィクトリアを見つめる。
「ラグナ……」
ヴィクトリアがラグナードの手を取ろうとしたが、やはり実体がないので見た目にそうなっているだけで、触覚はなかった。
「姉上……」
大人の姿になっても、ヴィクトリアはラグナードより小さかった。
姉を見上げていた記憶が朧気にあるので、不思議な気分だった。
「ラグナ、貴方の話を聞きたいわ。あれから今までのことを」
ヴィクトリアが要望した。