21、森の湖
光の方へ走ると、開けた場所に出た。森の湖だ。
月の光が降り注ぎ、湖の畔に咲き乱れる花が白く浮かび上がっている。
「綺麗……」
ミルディアは息を飲んだ。馬を止め、地面に降りる。
「これが……トリーの見たがっていた景色……」
ミルディアはその場にへたりこんだ。
「トリー……あなたは、この景色を見たの……? 夕日が差し込む、美しいこの場所を……」
ミルディアは月を仰いだ。
「貴女が呼んだの……? トリー……」
ミルディアの目に涙が浮かんでいた。
リリーが心配そうにミルディアに顔を寄せた。
近くの山から水が流れこんでいるのか、せせらぎのような音だけが聞こえていた。
そこに馬の蹄の音が近づいてくる。
「止まれ、ブルーノ!」
遅れてきたラグナードも、ミルディアを見て馬を降りた。
「ここは……」
覚えていないはずなのに、見覚えがあった。
「ここで……俺と……姉上は……」
閉じられていた記憶の蓋が開きかけている気がした。
「ダメだ、ぼんやりとしか思い出せない……」
ラグナードは頭を振った。
とりあえず馬2匹を木に繋ぎ、光の出所を探す。
光が強い方へ歩くと、湖に阻まれた。
「湖が光ってるのか……?」
濡れるのを覚悟で湖に入るべきかラグナードが悩んでいると、光が強くなった。
「湖の中から……何か……」
ミルディアが何かの気配を察知した。
「魔物か?」
ラグナードが剣に手を掛ける。
しかしラグナードは、どこか懐かしような、よく知っているような感覚を覚えていた。
「いいえ、これは……もっと強くて……神聖な、何か……」
ミルディアもはっきりとはわからず、言葉も途切れ途切れだ。
ミルディアの声に応えるように光が強くなった。
眩しくて目を開けていられない。
目が慣れた頃になんとか目を開けてみると、湖の上に立派な白い龍の姿があった。
「これは……」
ラグナードがあっけにとられる。
「神龍……?」
ミルディアが呟いた。
ミルディアも見るのは初めてだ。
人間より上位の存在、神そのものか、神に近いもの。
巫女をしていてその存在を感じることはあっても、滅多にお目にかかれるものではない。
初めて見る神龍の瞳は、ラグナードと同じ赤い色をしていた。