20、森の奥へ
ラグナードの愛馬は大柄な黒馬だ。名はブルーノと言う。外国の言葉で、盾や鎧の意味があるらしい。
ミルディアの愛馬はやや小柄な白い駿馬だ。名はリリーと言う。百合の花と言う意味だ。
(付ける名前にも個性が出るな)
と、ラグナードは思った。
「白馬は夜だと目立ちますね。危なくないですか?」
ミルディアの手綱捌きは騎士団顔負けの見事なものだったが、ラグナードは少し心配だった。
月明かりに照らされ、白馬はよく目立っていた。
「目立つから良いのです。怪我人が出たらどこに行くべきか、すぐわかるでしょう」
「しかし……」
「それに、それで私が狙われたなら、そこを狙い打ちすれば良いのです。囮と思ってもらって構いません」
ミルディアは実にあっさりしている。
(肝が据わっているのか、鈍感なのか……この人に怪我されると困るんだかな)
ラグナードはやれやれと肩をすくめた。
魔法部隊が魔物の気配を感知した。
魔物と獣の違いは、生命力や回復力が段違いであることと、微弱な魔力を持っているらしい。
魔法を使えないラグナードにはわからないが、魔法を使う者は感知できるそうだ。
「巫女の方も魔物の気配がわかるのですか?」
ラグナードが尋ねた。
「はい、何となくですが。あまり強い気配は感じません」
ミルディアの言葉通り、狼に毛が生えた程度の魔物数匹で魔物退治は終わった。
「もう気配は無いか?」
「はい、大丈夫のようです」
今回の作戦の副隊長で魔法部隊の隊長でもあるジェフリーが答える。
「怪我人は?」
「軽症の者ばかりです。すぐにミルディア様が治してくださったので、問題ありません。思ったより強くもなく数も少なくて助かりました」
ジェフリーはほっとした様子だ。
「そうだな。しかし、我々にはこの程度でも市井の人々には脅威になる。しっかり仕事せねばな」
ラグナードは油断なく答えた。
生命力と回復力が凄まじい魔物は、農具程度では太刀打ちできない。
やはりきちんとしたら武器で、きっちり致命傷を与えないとすぐに復活するのだ。
「よし、みんな大丈夫だな? 戻るぞ。全員朝までしっかり休養するように」
ラグナードがそう言い終えたときだった。
森の奥から光の柱が見えた。
「ラグナード様、あれは!?」
「わかりません、一体何が……」
驚くミルディアに、ラグナードは答えられない。
しかし、ほかの者たちはぽかんとしていた。
「隊長、何かありましたか?」
ジェフリーが尋ねる。
「何かって……あの光が見えないのか?」
ラグナードが指差すが、ほかの者たちは顔を見合わせて首を傾げるばかりだ。
(2人にしか見えていない……?)
ラグナードとミルディアは視線を合わせる。
「私たちが、呼ばれている……?」
ミルディアが呟く。
「隊長、大丈夫ですか? 我々も一緒に……」
ジェフリーが気遣うが、
「いや、お前たちは帰って休め」
ラグナードはきっぱりと言った。
それは勘でしかなかったが、2人だけで行くべきだと感じた。
「嫌な気配はしません。魔物ではないでしょう。もし万一、朝までに帰らなかったらあなたたちだけで王都に戻り、陛下に報告してください」
言うが早いか、ミルディアはリリーの腹を蹴って走り始めた。
そうなると、ラグナードも行かないわけにはいかない。
「ミルディア嬢の言う通りに」
戸惑っている騎士団員たちに告げ、ラグナードもミルディアの後を追った。